大阪・松屋町でスマートフォン修理を担当している店主です。先日、見たことのない状態のiPhone 11が当店カウンターに置かれました。画面全面が黒く塗られていて、しかもその黒色は塗装ではなく油性のマジックインキだったのです。お客様いわく「ヒビが目立つのが嫌で、見えなくしようと思って塗った」とのこと。気持ちは分かるのですが、結果として端末は完全にタッチ操作を受け付けない状態へ。今回はこの一件を、警告と教訓を込めて記録に残しておきます。

iPhone 11 screen-crack 修理事例

落下から「インクで隠す」までの経緯

持ち込まれたiPhone 11は、自宅の階段で落としたのが発端だったそうです。上から数段目から滑り落ちて、画面ガラスにクモの巣状のヒビが大きく走った状態。表示自体は生きていて、タッチも当初は半分くらいは反応していたと聞きました。多くのお客様はこの段階で当店にご相談くださるのですが、今回のお客様は別の選択をされました。

「修理に出す前に、見た目だけでも何とかならないか」と思い、文房具のマジックインキ(黒)で割れた部分を上から塗りつぶしたのです。最初はヒビの線だけを細く塗るつもりが、「どうせなら全部黒くした方が綺麗かも」とエスカレートし、結果的に画面の3分の2ほどがインクで覆われた状態になりました。塗った直後は表示が見えないだけで、まだ電源は入っていたそうです。

問題はその後でした。インクが乾く前にお客様が画面を指で何度かこすったところ、ヒビの隙間から液体のインクが内部にじわじわと染み込んでいきました。気付いた時には手遅れで、タッチが完全に反応しない、画面の一部に黒い染みが内側から広がっている、という状態に。来店時には「もう何をしても無理かもしれませんが…」と落ち込んでおられました。

当店からの注意喚起:割れたガラスの上に油性インク・塗料・接着剤などを塗布すると、ヒビの毛細管現象でディスプレイ内部(液晶層・タッチセンサ・偏光板)へ液体が浸透します。そうなると画面交換だけでなく、内部基板まで影響が及ぶケースもあります。

持ち込み時の被害状況 ― 何がどこまで死んでいたか

カウンターでお預かりした時点での症状は、想像以上に重いものでした。まず外観としては、画面全体に油性インク特有の独特なにおいが残っており、ガラス表面はざらついて指紋がつかないほど。タッチに関しては全領域で反応なし。スワイプ・タップ・ロック解除、いずれも無反応です。表示はかろうじて生きており、ロック画面の時計は見えていましたが、数分経つと画面下部に内側から黒いシミがじわっと広がっていく様子が確認できました。

当店では分解前の点検を必ず行います。診断の結果、以下が判明しました。

  • 液晶パネル:インク浸透により広範囲に変色、表示寿命が大幅に短い状態
  • タッチデジタイザ層:インクが導電層に到達して短絡を起こし、全面不感応
  • フロントガラス:ヒビ多数 + インク付着でクリーニング不可
  • 本体フレーム:画面とフレームの隙間からインクが内側へ進入
  • 基板側:目視点検では明らかな腐食は確認できず(この点だけは幸運でした)

つまり画面ユニットは丸ごと交換が必要、ただ基板まで侵されていなかったのは不幸中の幸い、という診断です。お客様には分解前に状況を写真でお見せし、画面ユニット交換で対応する旨をご説明したうえで、ご納得いただいてから作業に入りました。同じ症状の他事例も当店ではこれまで何度か経験しており、似たケースでデータを保持したまま戻せた事例も多くあります。

修理での回復 ― 内部清掃と画面ユニット交換

作業手順は次の通りでした。まず本体の電源を落とし、底部ネジを外して画面ユニットをゆっくり持ち上げます。通常の画面交換であれば30分目安なのですが、今回は内部にインクが入り込んでいたため、フレーム内側・防水パッキン溝・コネクタ周辺を丁寧にクリーニングする工程が追加で発生しました。インクは乾くと粘着質に固まり、無水アルコールと専用クリーナーで少しずつ落としていく必要があります。当店では2019年の創業から似た「液体浸透」案件を月に1-2件は受けており、今回もその経験を活かしました。

クリーニング後、新しい画面ユニットを接続して通電テスト。表示・タッチ・True Tone・近接センサ・フロントカメラ・スピーカー、すべて正常動作することを確認しました。データもそのまま残っており、お客様のApple IDでロック解除後、ホーム画面・写真・LINE のトーク履歴が無事であることを一緒に確認していただきました。大阪・松屋町スマエキでは、画面ユニット交換の際にもデータの引き継ぎは原則そのままで対応するようにしています(ただし基板側まで損傷した場合は事前バックアップを推奨します)。

最後に防水パッキンを新品に交換し、組み戻して動作チェック。お預かりから返却まで、今回はクリーニング工程込みで2時間ほどとなりました。お客様からは「もう完全に終わったと思っていた」と何度もお礼を言っていただきましたが、こちらとしては「次は塗らずに、すぐ持って来てくださいね」とお伝えするのが精一杯でした。

ちなみに iPhone 以外でも、iPad画面割れ修理の流れはほぼ同じ考え方で進みます。割れた瞬間に余計な処置をせず、そのまま持ち込んでいただくのが結局いちばん早い回復ルートとなります。

今後への教訓 ― ヒビは「隠す」より「触らない」

今回のケースから持ち帰っていただきたい教訓は、たった一つです。割れたガラスの上に何かを塗らないこと。気持ちとしては「見た目を何とかしたい」「人に見られたくない」という思いがあるのは理解できます。しかしガラスのヒビは肉眼で見える以上に細かく、毛細管現象で液体は驚くほど内部に入り込みます。マジックインキ・修正液・透明マニキュア・接着剤・養生テープの粘着糊、どれも液体やゲル状の成分が画面内部に浸透するリスクを持っています。

応急処置としてどうしても何かしたい場合は、画面保護フィルムを上から貼るくらいに留めるのが現実的な対処です。フィルムであれば指のケガ防止になり、ガラス片の脱落も防げます。塗るのではなく覆う、という考え方となります。

もう一つ、よくお客様から「ヒビが入っただけなら使えるからまだいい」というご相談もいただきますが、経験上ヒビが入った画面は数日〜数週間でタッチ感度の低下、ゴーストタッチ(勝手に動く)、表示の縦線・横線、と段階的に悪化していくケースが多く見られます。早めにお持ち込みいただいた方が、結果的にお預かり時間も短く済みます。当店の修理料金の目安は機種・症状によって変わるため、お問い合わせフォームよりお気軽にご相談ください。

大阪・松屋町(地下鉄松屋町駅徒歩圏)の当店は、10:00〜19:00 営業、水曜定休でお待ちしています。来店だけでなく郵送修理も受け付けており、遠方の方でもご利用いただけます。「やっちゃったかも…」という案件ほど、丁寧に状況をお伺いしますので、まずは現状の写真を添えてお問い合わせください。同じような失敗事例は修理ブログ一覧にも記録していますので、参考にしていただければ。

よくある質問

画面のヒビにマジックインキを塗ったあとでも修理できますか?

多くのケースで画面ユニット交換により復旧可能です。ただし内部にインクが浸透した場合はクリーニング工程が追加で必要となり、お預かり時間が通常より長くなります。基板まで影響が及んでいるかは、分解診断で確認します。

ヒビを隠したい場合、何を使えば安全ですか?

経験上、画面保護フィルムを上から貼るのが現実的です。液体・ゲル・接着剤系は毛細管現象でガラス内部に染み込むため、避けてください。フィルムであれば指のケガ防止にもなり、ガラス片の脱落も抑えられます。

iPhone 11 の画面交換でデータは消えますか?

ほとんどの修理でデータを保持したまま対応可能です。基板交換が不要な画面ユニット交換であれば、写真・LINE・連絡先などはそのまま残ります。重度故障の場合のみ事前バックアップを推奨しています。

DIY で部品交換に挑戦して失敗した端末でも見てもらえますか?

対応しています。当店ではご自身での修理後に持ち込まれるケースも月に数件いただきます。状況を分解前に確認のうえ、お見積もりをお出ししますので、まずはお問い合わせフォームよりご相談ください。

松屋町まで行けない場合はどうすれば?

郵送修理にも対応しています。大阪府外・遠方の方からのご依頼も受け付けており、お問い合わせフォームから状況をお送りいただければ、発送方法をご案内します。