2019 年に大阪・松屋町で開業して以来、水没修理は当店でも月に 8〜10 件ほどお預かりしています。その中でも今回ご紹介するケースは、お客様ご自身による「乾燥処置」が裏目に出てしまい、本来であれば軽度〜中度で済んだ可能性のある水濡れ症状が、基板の広範囲ダメージにまで進行してしまった、印象に残るご依頼でした。
結論から先に申し上げると、水没した端末を電子レンジに入れることは絶対に避けてください。バッテリーは加熱で発火・破裂のリスクがあり、内部の金属部品もマイクロ波で損傷します。同じ症状の他事例については 同じ症状の他事例 もあわせてご覧ください。

失敗の経緯 — 焦りが招いた「電子レンジ乾燥」
ご来店されたのは 30 代の男性のお客様。お風呂で動画を視聴中、湯船に iPhone 12 を落としてしまったとのこと。引き上げてすぐに電源を切れば、まだ被害は限定的だったはずです。ところがお客様は「とにかく早く乾かさなければ」と焦り、ご自宅にあった電子レンジを使って乾燥を試みてしまいました。
具体的には、タオルで軽く水分を拭き取った後、500W で 5 秒だけ加熱したそうです。「短時間ならいけるはず」というネット情報を参考にされたとのことでした。結果は最悪で、わずか 3 秒経過した時点で本体から「パン」という破裂音とともに白煙が立ち上り、慌てて停止して取り出したものの、すでに本体は手で触れないほど熱を持っていたとのこと。
警告: 電子レンジは絶対に使用しないでください。リチウムイオンバッテリーはマイクロ波加熱で内部短絡を起こし、発火・破裂・有毒ガス発生のリスクがあります。短時間でも例外はありません。
お客様がご来店された時点で、iPhone 12 は完全に電源が入らず、本体背面のリンゴマークあたりに焦げたような変色が見られました。お預かり時に、技術者からも「これは基板まで進行している可能性が高いです」とお伝えしました。
被害状況 — 基板に広がった熱と腐食のダメージ
分解診断の結果、想像以上に深刻な状態でした。バッテリーは膨張して筐体内側を圧迫しており、フレキケーブルの一部が熱で溶けて変形。さらに加熱前に侵入していた水分が基板上に残っていたため、熱と水分が同時に作用して電蝕 (基板の腐食) が広範囲に進行していました。
具体的に確認できた損傷は次のとおりです。
- バッテリー: 膨張・発熱痕あり、再使用不可
- 充電 IC 周辺: 焦げ跡、はんだの変色
- フェイス ID 関連フレキ: 熱変形による断線
- ロジックボード裏面: 腐食 (緑青) が複数箇所
- ディスプレイコネクタ: 接点の酸化
当店での経験上、水没のみのケースであれば、超音波洗浄と部分的なフレキ交換で復旧することがほとんどです。しかし今回は熱ダメージが重なっていたため、基板再構築範囲の重度修理として対応することになりました。お客様には事前に「データ保持の保証は難しい」旨をお伝えし、修理着手前にご納得いただいています。
水没・基板修理の重度故障については、大阪・松屋町スマエキでは事前バックアップを強くお勧めしています。普段から iCloud またはパソコンへのバックアップを取っておくことで、万が一の際の被害を最小限に抑えられます。
修理での回復 — 基板洗浄と部品個別交換による復旧プロセス
修理工程は段階的に進めました。お預かり時間の目安としては、診断に半日、本格修理に 3〜5 日ほど見ていただきました (混雑状況により前後します)。
第一段階は基板の徹底洗浄。アルコールベースの専用洗浄液と超音波洗浄機を使い、腐食の進行を止めます。緑青が硬く付着している部分は、顕微鏡下で技術者が手作業で除去しました。この時点で基板の状態が想定より良好であることが分かり、修理可能と判断できました。
第二段階は損傷部品の個別交換。膨張バッテリー、変形フレキ、酸化したコネクタを順番に交換。充電 IC は焦げ跡があったものの、機能チェックでは正常範囲内だったため、洗浄後に再利用としました。フェイス ID 関連は構造上ペアリング情報が紐付いているため、機能の一部 (顔認証) は復旧不可となる旨をお客様に再度ご説明しました。
第三段階は動作確認とエージング。電源投入後、各種センサー・通信・カメラ・音声を一通りテスト。24 時間の連続稼働テストで安定動作を確認し、お引き渡しとなりました。データは 9 割方保持できましたが、一部のアプリ設定は再設定が必要でした。
当店では分解前のお見積もりは無料、ご納得いただいてから着手します。基板修理レベルの作業については、修理料金の目安 ページにて症状別の参考情報を掲載しています。料金は機種・症状によって異なりますので、まずはお問い合わせフォームよりお気軽にご相談ください。
今後への教訓 — 水濡れ時に「やるべきこと」と「やってはいけないこと」
このケースを通じて、改めてお客様にお伝えしたい教訓を整理しました。スマートフォンが水に濡れた直後の対応で、その後の修理規模が大きく変わります。
やってはいけないこと:
- 電子レンジ・ドライヤー・オーブンなどによる加熱乾燥
- 電源を入れて動作確認すること (通電がショートを誘発)
- 充電器に接続すること
- 本体を振って水を抜こうとすること (内部に水を広げる原因)
- 米びつに入れる方法 (効果は限定的、米粉が入り込むリスク)
やるべきこと:
- すぐに電源を切る (起動中の場合)
- SIM トレイを抜き、外部の水分を柔らかい布で拭き取る
- そのままの状態でできるだけ早く修理店に持ち込む
- 可能であればシリカゲルと一緒に密閉袋に入れて運ぶ
ポイント: 水没から 30 分以内であれば、電蝕の進行は限定的です。「乾かそう」とせず「通電させない」ことが最優先となります。
当店では水没修理に関しても、機種・症状によっては当日返却可能なケースもあります。ただし基板修理レベルになると数日のお預かりが必要となり、データ保持も難しくなる場合があります。日頃からのバックアップ習慣が、いざというときの最大の備えとなります。修理事例については 修理ブログ一覧 でも他機種・他症状を公開していますので、ご参考にどうぞ。なお iPad の画面割れ修理にご興味のある方は iPad画面割れ修理の流れ もあわせてご覧ください。
大阪・松屋町のスマエキは 10:00〜19:00 営業 (水曜定休)、来店修理に加えて配送修理 (郵送依頼) にも対応しています。修理後は技術基準適合確認のうえお引渡しいたします。交換した部品に対しては 3 ヶ月の動作保証 (落下・水濡れなど使用上のトラブルは対象外、詳細は保証規約ページ) をお付けしています。お困りの際は、まずお問い合わせフォームよりご状況をお知らせください。
よくある質問
iPhone 12 を水没させてしまいました。電子レンジで乾かしても大丈夫ですか?
絶対にお止めください。リチウムイオンバッテリーはマイクロ波で発熱・破裂のリスクがあり、数秒でも発煙する事例があります。当店でも電子レンジ加熱後にお持ち込みいただいたケースは基板修理が必要な状態に進行していました。
水没後すぐに修理店に行けない場合、どうすればいいですか?
電源を切ったまま、SIM トレイを抜き、外側の水分を柔らかい布で拭いてください。可能であればシリカゲルと一緒に密閉袋に入れ、できるだけ早めに修理店へお持ち込みください。通電させないことが最も重要です。
基板修理になると、データは残りますか?
ほとんどの修理でデータを保持したまま対応可能ですが、基板修理・水没等の重度故障は事前バックアップを強くお勧めしています。今回のような熱ダメージが重なったケースでは、データ保持を保証することは難しくなります。
お預かり時間はどのくらいかかりますか?
症状によりますが、軽度の水濡れであれば当日返却可能なケースもあります。今回のような重度の基板修理の場合、診断に半日、本格修理に 3〜5 日ほどが目安となります (在庫・混雑状況により前後します)。
修理料金はいくらくらいですか?
料金は機種・症状によって異なります。分解前のお見積もりは無料、お見積もり提示後のキャンセルも可能ですので (分解診断・部品発注後は所定の手数料が発生する場合があります)、まずはお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。