2019 年から大阪・松屋町で修理を続けていると、年に数件、ネット上の情報を信じて独自の応急処置を試みた結果、状況を悪化させてしまった端末が運ばれてきます。今回ご紹介するのも、そのうちの一件でした。来店されたのは 30 代男性のお客様。手にしていた iPhone 12 からは、なんとも言えない生臭さが漂っていたのを覚えています。

事の発端 ── 生卵の白身で割れを固定するという発想

お話を伺うと、お客様は二日前に iPhone 12 を玄関のタイルに落下させ、画面全体に蜘蛛の巣状のクラックが入った状態でした。応急処置として「卵白には接着力がある」というネットの古い情報を見て、生卵を割って白身だけを取り出し、ガラス面に塗布したそうです。

確かに卵の白身に含まれるアルブミンは加熱で凝固する性質を持ち、絵画の修復(テンペラ画)などで使われてきた歴史はあります。ただし、そのまま常温の電子機器に塗布した場合、半乾きの状態で雑菌が繁殖し腐敗していくだけです。
持ち込まれた時点で、画面全体には黄色く変色した粘性物質が薄く広がり、独特の腐敗臭を放っていました。タッチ操作も部分的に効かず、スピーカーグリル付近にも液体が侵入した形跡が見られました。

注意: 食品由来の物質を電子機器に塗布する応急処置は、たんぱく質の腐敗・雑菌繁殖・端子腐食・基板ショートを誘発する原因となります。情報源が古いブログや出典不明の記事の場合、事実確認をしてから行動することをおすすめします。

分解して見えた被害状況

お見積もりのうえお預かりし、分解診断に進みました。バックアップは事前にお客様自身で済ませておられましたが、念のため通電状態と起動を確認してから作業に入ります。

フロントパネルを外した時点で、卵白由来の液体がフレーム内側、ホームボタン跡(iPhone 12 ではセンサー部)の隙間、さらにはディスプレイケーブルのコネクタ周辺にまで侵入していたことが確認できました。コネクタ端子の一部にはすでに緑青(りょくしょう)状の腐食が始まりかけており、放置していれば数週間で基板損傷へ進行していた可能性が高い状態でした。

  • ディスプレイ本体: ガラス・有機 EL ともに割損、交換必須
  • フロントカメラフレックス: 卵白侵入により絶縁不良の懸念
  • 近接センサー: 動作不安定
  • イヤースピーカー: 異物侵入による音割れ
  • 本体フレーム: 内側全体に粘着物の付着

過去の同じ症状の事例については、同じ症状の他事例のページにも症状ごとの対応記録をまとめてあります。落下による単純な画面割れから、今回のように二次被害が加わった重度ケースまで、対応の幅は意外と広いものでした。

洗浄から部品交換までの回復プロセス

今回の作業は通常の画面交換ではなく、まずは内部洗浄から着手しました。手順としては次のような流れになります。

  1. バッテリーコネクタを切り離し、給電を完全に遮断
  2. 非導電性のクリーニング液で卵白残留物を分解・除去
  3. 超音波洗浄機にフレックスケーブル類を投入し、コネクタ内部の腐食前段階を中和
  4. 各コネクタ端子の導通テストを実施
  5. ディスプレイアセンブリ・フロントカメラフレックスを新品に交換
  6. 近接センサー・イヤースピーカーは洗浄後の動作確認で問題なしと判断し再利用
  7. 組み戻し後、技術基準適合確認のうえお引渡し

所要時間は約 2 時間半。通常の画面割れ単独であれば 30 分目安で済むところ、今回は洗浄工程と二次被害の確認が加わったため、お預かり時間が長くなりました(混雑状況や在庫により前後します)。お客様には作業完了後、Face ID・タッチ感度・スピーカー音質を実際にご確認いただいたうえで、3 ヶ月の動作保証とともにお返ししました。落下や水濡れなどの新たな使用上のトラブルは保証対象外となりますが、修理した部分に起因する不具合があれば再対応いたします。

iPhone 12 screen-crack 修理事例

iPad の場合の流れは少し異なるため、iPad画面割れ修理の流れのページを参考にしてください。

今回の事例から学べる三つの教訓

今回のケースを振り返ると、お客様自身も「ネットの情報を鵜呑みにした自分が情けない」と苦笑いされていました。とはいえ、この種の応急処置は決して珍しい話ではありません。当店でも、月に 3-4 件は何らかの自己対処後の端末が持ち込まれます。経験上、共通するパターンは三つあります。

① 食品・家庭用品の流用は逆効果
卵白・木工用ボンド・歯磨き粉・マニキュアのトップコート ── 過去に持ち込まれた応急処置の素材は実に多彩でした。共通するのは、いずれも電子機器の素材設計と相性が悪く、二次被害を呼ぶという点です。

② 時間が経つほど被害が拡大する
落下直後ならガラス交換のみで済んだ案件が、応急処置の失敗 + 数日放置で基板洗浄まで必要になるケースは少なくありません。違和感を感じた段階で、まずは現状維持のまま専門の窓口にご相談いただくのが近道となります。

③ ネットで購入した部品での DIY もリスクが高い
純正同等を謳う部品でも、フレキケーブルのピンアサインがわずかに異なり、組み付け時にショートさせてしまった事例も実際にありました。大阪・松屋町スマエキでは、こうした DIY 後の二次修理にも対応しておりますが、初めから当店にお持ち込みいただいた方が結果的に作業範囲が小さく済む傾向があります。

応急処置として現実的なのは「電源を切る」「乾いた布で拭う」「現状を変えずに専門窓口へ運ぶ」の三点に尽きるようです。あれこれ試したくなる気持ちはわかりますが、状況を悪化させない勇気も大切でした。

料金や対応可能な機種について詳しくは修理料金の目安をご確認ください。当店は来店修理のほか、遠方の方には配送修理も承っております。営業は 10:00〜19:00、水曜定休、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。他のトラブル事例については修理ブログ一覧に随時追加しております。

よくある質問

卵白を塗布してしまった iPhone でも修理できますか?

今回のケースでは洗浄と部品交換で復旧できました。ただし、放置期間が長く基板腐食まで進行している場合は、追加の基板洗浄や部品手配が必要になる場合があります。状態によって対応範囲が変わるため、まずは現状のままお持ちいただくのが近道です。

iPhone 12 の画面交換だけならどのくらい時間がかかりますか?

画面交換のみであればお預かり時間は 30 分目安となります。在庫状況や混雑により前後しますので、急ぎの場合は事前にお問い合わせフォームからご連絡いただけると確実でした。

ネットで部品を買って自分で交換したあとに不具合が出た場合も対応してもらえますか?

対応可能です。月に数件、DIY 後のご相談が当店に寄せられます。ただし、組み付けによる二次被害(コネクタ折れ・基板ショート)が発生していると、画面交換だけでは済まない場合もあります。

データはそのまま残りますか?

今回のような画面交換 + 内部洗浄レベルの作業であれば、ほとんどのケースでデータを保持したまま対応可能です。ただし基板側に重度の損傷がある場合は事前バックアップを推奨しております。

配送修理は受け付けていますか?

対応しております。大阪・松屋町の店舗まで端末を発送いただき、診断後にお見積もりをご提示いたします。お見積もりに納得いただけない場合のキャンセルも可能ですが、分解診断・部品発注後は所定の手数料が発生する場合があります。