先日、店頭に持ち込まれた iPhone 12 のお話です。お風呂場でうっかり水没させたあと、ご自身で「ヘアアイロンに挟んで一気に水分を飛ばす」という乾燥方法を試され、結果として画面も基板もダメージを負った状態で当店にいらっしゃいました。当店では月に 3-4 件、こうした自己流の乾燥処置による二次故障のご相談をお受けします。今回はその一連の流れを、現場の記録として残しておきます。

① 失敗の経緯 — 「乾かせば直る」と思った夜
お客様のお話をうかがうと、洗面所で iPhone 12 を落としてしまい、5 秒ほど水に浸かってしまったとのこと。すぐに拾い上げ、タオルで拭いてから電源を確認すると、画面が一瞬チラついて消えたそうです。
ここで多くの方が焦ります。お客様は「中の水分さえ完全に飛ばせば動くはず」と判断され、洗面台にあったヘアアイロンで本体全体を約 1 分ほど挟み込んで加熱したそうでした。設定温度はおおよそ 180℃ 前後とのこと。スマートフォンの内部部品が想定する動作温度の上限は機種にもよりますが概ね 35〜45℃ 付近であり、その 4 倍以上の熱が筐体経由で内部に伝わったことになります。
注意: ヘアアイロン・ドライヤーの高温風・電子レンジ・トースターなどによる加熱乾燥は、水没で残った微量の水分を「沸騰させて基板裏側に押し込む」動きを起こすことが知られています。さらに液晶パネル・有機 EL の偏光フィルムやバッテリのセパレータは熱に非常に弱く、表面が無事に見えても内部で先に劣化が進みます。
当店としては「DIY するな」と申し上げるつもりはございません。ただ、同じ症状の他事例を経験から振り返ると、加熱は水没のリカバリーで最も避けたい処置のひとつでした。
② 被害状況 — 開けてみて分かった三層のダメージ
お預かりして筐体を開封し、診断ライトで確認したところ、被害は大きく 3 つの層に分かれていました。
1 つ目は液晶バックライトの焼損です。iPhone 12 は OLED ですが、表面のガラス越しに見ると一部が薄く焦げた茶色に変色していました。バックライト系統のフレキシブルケーブル付近で、加熱と水分の同居によるショートが起きたものと推察します。電源を入れてもタッチ反応はあるのに表示が真っ暗、というのはこのパターンでよく出る症状でした。
2 つ目はバッテリの熱変形。取り外してみると、長辺の中央付近がわずかに膨らんでおり、本来真っ平らであるはずの面に約 1.2mm の凸が出ていました。リチウムイオン電池は 60℃ を超えると内部のセパレータがダメージを受け、80℃ 以上で発煙・発火のリスクが急速に高まる素子です。今回は外観上の発火痕はなかったものの、再使用は危険と判断しました。
3 つ目は基板上の腐食。これは加熱とは別系統の被害で、最初の水没時点で侵入した水分が乾燥前に基板の銅箔と反応して、ディスプレイコネクタ付近に薄い緑青(ろくしょう)が広がっていました。実は熱を当てた直後よりも、その後 24 時間放置されたことで腐食が進行していたようです。
③ 修理での回復 — 分解洗浄 → 部品交換 → 動作試験
お見積もりをご提示し、ご了承いただいたうえで作業に入りました。当店では水没修理の場合、以下の順序で進めます。
まず本体を完全に分解し、基板を専用のイソプロピルアルコール(IPA)で超音波洗浄機にかけます。今回は腐食が比較的浅かったため 10 分前後の洗浄で銅箔本来の光沢が戻りました。次に顕微鏡下でランドの欠損やチップ抵抗の脱落がないかを 1 つずつ確認していきます。今回はディスプレイコネクタ脇の 0402 サイズチップ抵抗が 2 個欠落しており、ここを実装し直す処置を行いました。
続いて液晶パネルとバッテリを交換。当店では交換した部品に対して 3 ヶ月の動作保証をお付けしております(落下・水濡れなど使用上のトラブルは対象外、詳細は保証規約ページ)。組み上げ後はリンゴループや充電不良が出ないか、3 時間ほど通電エージングをかけて挙動を観察しました。
結果として、データはそのままお返しできました。基板修理・水没等の重度故障では事前バックアップ推奨ではありますが、今回は写真も LINE のトーク履歴も無事で、お客様には大変ご安心いただけたご様子でした。お預かり時間は基板洗浄の乾燥工程を含めて2 泊 3 日を目安に頂戴しています(症状によっては前後)。
④ 今後への教訓 — もし水没させてしまったら
同じトラブルを未然に防いでいただくため、当店として経験上お伝えできる初動を 3 つだけ。
1 つ目、電源を切る。動作中の端末は基板に通電しているため、水分があるだけでショートが進行します。サイドボタン長押しで完全シャットダウンが第一手でした。
2 つ目、振らない、加熱しない、充電しない。水を中に押し広げる動作、熱で部品を傷める動作、通電を再開させる動作はいずれも被害を広げます。お米の袋に埋める方法も実は乾燥効率としてはほぼ意味がなく、米粒の粉が端子に詰まる別問題を生むこともございました。
3 つ目、できるだけ早くプロに渡す。水没から 24 時間以内に基板洗浄を行えるかどうかで、復旧成功率は大きく変わってまいります。当店は大阪市中央区松屋町住吉 6-26で 10:00〜19:00(水曜定休)に営業しており、来店修理のほか配送修理(郵送依頼)にも対応しております。遠方の方も、お問い合わせフォームから症状写真をお送りいただければ、目安の流れと所要時間をお返事できます。
機種別の作業手順や工程の写真は iPad画面割れ修理の流れ にも近いものを掲載しています。同じく実際の事例は 修理ブログ一覧 でご覧いただけます。スマートフォン・タブレットの修理を専門に対応している大阪・松屋町スマエキでは、料金は機種・症状によって異なるため、まずは修理料金の目安をご参照のうえ、お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。分解前のお見積もりは無料、お見積もり提示後のキャンセルも可能です(分解診断・部品発注後は所定の手数料が発生する場合があります)。
水没してパニックになる気持ちは本当によく分かります。だからこそ、自分で熱を加える前に、一度立ち止まって専門スタッフにご相談いただければ幸いです。修理後は技術基準適合確認のうえお引渡しいたします。
よくある質問
水没した iPhone をヘアアイロンで乾かしたら画面が真っ黒になりました。直りますか?
多くのケースで分解洗浄と液晶パネル交換で復旧できております。ただしバッテリは熱で内部劣化している可能性が高く、同時交換を強く推奨いたします。診断後にお見積もりをご提示します。
乾燥のためにドライヤーや電子レンジを使うのはダメですか?
経験上、いずれも被害を広げる処置となります。残留水分が沸騰して基板奥に押し込まれたり、バッテリのセパレータが熱で損傷したりするためです。電源を切ってお持ち込みいただくのが安全でした。
水没後、データはそのまま戻ってきますか?
ほとんどの修理でデータを保持したまま対応可能ですが、水没・基板修理など重度故障では事前バックアップを推奨しております。今回の事例ではデータはそのまま復旧できました。
どのくらいの期間、預けることになりますか?
水没の場合は基板洗浄と乾燥工程が必要なため、2 泊 3 日を目安にお預かりしております。症状や部品在庫により前後するため、診断時に具体的な日数をお伝えします。
遠方ですが配送修理は可能ですか?
はい、配送修理(郵送依頼)に対応しております。大阪市中央区松屋町の店舗まで送付いただき、診断後にお見積もりを共有してから作業に入る流れです。お問い合わせフォームよりご相談ください。