先日、当店の作業台に並んだのは、外装が外れた状態のiPhone XS Max でした。お持ち込みいただいたのはお仕事帰りに立ち寄られた30代の男性のお客様。「ヤフオクで落とした画面割れジャンク機から、まだ生きているバッテリーをハンダ吸引機で外して、自分の機体に移植しようとしたんです」と、少しばつの悪そうな表情で経緯を話してくださいました。スマエキでは2019年の創業以来、こうしたDIY後のリカバリ依頼が月に3〜4件ほど入ってきます。今回はその中でも、被害が基板にまで及んだ典型的なパターンでした。
失敗の経緯 — 「コネクタごと取り出せば早い」が落とし穴に
お客様の作業手順を伺うと、流れはこうでした。ジャンク機側のバッテリーコネクタを基板から外す際、フレキの接合部に直接ハンダ吸引機を当ててコネクタごと回収しようとされた、とのこと。理屈としては「コネクタ付きで取り出せば、自分の機体にそのまま乗せ替えられる」という発想です。確かにDIY系の海外動画にはそういう手法を紹介している投稿も見かけます。同じiPhoneのバッテリー関連でお預かりした他事例でも、ネット動画を参考に作業されたケースは少なくありません。
ただ、iPhone XS Max の基板は両面実装で、バッテリーコネクタの真下にも細かな部品が並んでいます。ハンダ吸引機の熱と振動でコネクタは外れたものの、その瞬間に溶けたハンダが小さな粒となって基板上に飛散。お客様自身も「キラッと光るものが落ちた気はしたが、エアダスターで飛ばせば大丈夫だろうと思ってそのまま組んだ」とのことでした。
注意:基板に落ちたハンダ屑は、肉眼では見えにくい数百μm単位の粒でも、隣接ピン同士をブリッジさせて短絡を起こします。エアダスターでは表面の埃は飛ばせても、フラックスでくっついた粒は動かないことが多いという印象です。
被害状況 — 電源IC焼損とサブ基板の損傷
お預かり後、まず分解して目視と顕微鏡(20倍)で確認しました。バッテリーコネクタ周辺、つまりPMIC(電源管理IC)からそう遠くない位置に、明らかにハンダの粒が2点付着しています。さらに電源ICの一角に、本来あるべきでない焦げ色がついていました。リフロー時にショートが起こり、電流が一気に流れて部品を焼いた、という典型的な絵柄です。
お客様は組み戻した直後にケーブルを差して充電を試みたそうで、その時点で電源IC側に過電流が走った可能性が高いと判断しました。電源が入らない、振動もしない、PCに繋いでもデバイスとして認識されない。いわゆる「文鎮化」した状態でした。
当店ではこうした基板修理の事例を年間で60件前後扱っており、症状から「電源IC交換+周辺クリーニング」のコースで復旧の見込みが立つと判断。お見積もりをお出しして、お客様にご納得いただいてから本格的な修理に入りました。なお、分解前のお見積もり提示は無料、提示後のキャンセルも可能です(分解診断・部品発注後は所定の手数料が発生する場合があります)。
修理での回復 — 基板洗浄とPMIC打ち替え
復旧の作業は3段階に分けて進めました。
第一段階は基板洗浄。ハンダ屑とフラックス残渣を除去するため、超音波洗浄機にIPA(イソプロピルアルコール)を入れて短時間処理し、その後エアブローと顕微鏡確認を繰り返します。これだけでも、隣接ピンの短絡が解消されて症状が改善するケースは経験上少なくありません。今回は屑は取れたものの、依然として通電しない状態でした。
第二段階はPMICの打ち替え。BGAタイプのチップなので、ホットエアステーションで温度プロファイルを管理しながら旧チップを撤去し、ステンシルを使ってリボーリング、新しいPMICを実装します。XS Max のPMICは型番が決まっており、当店では基板修理用の予備在庫を常に持っています。打ち替え後、テスター で5V/0.5A程度を流して電流値を確認、異常な突入電流がないことを確認して通電試験へ。
第三段階は組み付けと動作確認。リンゴマークが点灯した瞬間は、何度経験しても少しほっとする瞬間です。OSの起動、Wi-Fi、セルラー、Face ID、カメラ、スピーカー、各ボタン、充電速度まで一通り確認して問題なし。お預かり時間は分解診断から組み戻しまで含めて中3日のお預かりとなりました。基板修理の場合、症状や部品在庫の状況によって日数は前後しますが、概ねバッテリー単体交換のような短時間作業とは別枠とお考えいただければと思います。
iPad のように画面割れから入る修理とは作業の性質が異なるため、参考までにiPad画面割れ修理の流れも別ページにまとめています。
今後への教訓 — 「動画通り」と「自分の機体」のあいだ
お引渡し時、お客様にお伝えしたのは三つでした。一つ目、ジャンク機から部品を取り出すこと自体は悪いことではないが、ハンダを溶かす作業は基板の上で行わず、外に出してから処理する方が安全。二つ目、作業後は必ずIPA で洗浄し、顕微鏡で残留物を確認する。三つ目、通電前に最低限の電流確認をしてから電源投入する。
ご自身での修理を頭から否定するつもりはありません。海外には熟練のリペアラーもいて、彼らの動画は技術的に学ぶところが多いのも事実です。ただ、設備と経験が前提の作業を、家庭の机の上で再現するのは難しい場面もあります。今回のお客様は「次に何かあったら最初から相談します」と笑って帰っていかれました。
当店大阪・松屋町スマエキでは、こうしたDIY後のリカバリも含めて、来店修理と配送修理(郵送依頼)の両方で対応しています。営業は10:00〜19:00、水曜定休。修理料金の目安や、過去の修理記録は修理ブログ一覧からご覧いただけます。料金は機種・症状によって異なりますので、まずはお問い合わせフォームよりお気軽にご相談ください。交換した部品に対しては3ヶ月の動作保証(落下・水濡れなど使用上のトラブルは対象外、詳細は保証規約ページ)をお付けしています。
よくある質問
DIYでバッテリー交換に失敗した端末でも、基板修理で復旧できますか?
症状によります。今回のように電源ICが焼損していても打ち替えで復旧するケースは経験上多いですが、CPU や Wi-Fi モジュールなど中核チップが致命的に損傷している場合は復旧が難しいこともあります。分解前の目視診断とお見積もりは無料ですので、まずはお持ち込みください。
基板修理にはどれくらいの日数がかかりますか?
症状と部品在庫によって変わりますが、目安として中2日〜1週間程度のお預かりとなることが多いです。当日中の返却が難しい修理ですので、配送修理(郵送)を選ばれるお客様も少なくありません。
ジャンク機から取ったバッテリーを使うのは、修理屋として推奨できますか?
正直なところ、推奨はしておりません。劣化具合がわからない中古セルは膨張や発熱のリスクがあります。当店では新品の互換バッテリーを使った交換のご案内が中心です。
データはそのまま残りますか?
ほとんどの基板修理でデータを保持したまま対応可能ですが、電源IC や CPU の損傷度合いによっては起動できないままお返しになる可能性もゼロではありません。重要なデータがある端末は、修理前のバックアップを推奨しています。
大阪・松屋町以外からの依頼もできますか?
はい、配送修理(郵送依頼)で全国から対応しています。お問い合わせフォームでご相談いただければ、発送手順をご案内いたします。