2019 年に当店をはじめてから、iPhone のカメラトラブルは月に 5〜7 件ほど扱っています。中でも近頃増えているのが、ご自身でレンズを磨こうとして悪化させてしまうケースです。今回は iPhone 13 mini のリアカメラを綿棒+ガラス研磨剤で磨き、写真画質が崩壊した一例をご紹介します。

研磨剤を綿棒に取って磨いた、その経緯

持ち込まれたのは 30 代の男性のお客様。半年ほど前から iPhone 13 mini のリアカメラ広角側にうっすらとした曇りが出ており、写真が白っぽく抜ける症状が気になっていたとのことでした。ネット記事で「ガラス用研磨剤で磨くと曇りが取れる」という情報を見つけ、ホームセンターで購入したガラス研磨剤を綿棒に取り、円を描くように 5 分ほど磨いたそうです。

磨いた直後は曇りが取れたように見えたものの、夜に室内灯を撮影したところ、強い光源の周りに白いハロー(にじみ)が出るようになりました。さらに翌日、屋外で逆光気味に撮影すると全体がフレア状に真っ白になり、人物の輪郭もぼやけてしまう。慌てて再度磨いたところ、肉眼でも分かる細かい擦り傷が放射状に広がり、もう手に負えなくなったところで当店へご来店いただきました。

注意: ガラス用研磨剤は窓ガラスや車のヘッドライトを想定した製品で、含まれる酸化セリウムなどの研磨粒子は iPhone のレンズカバーよりも硬度が高い場合があります。表面の反射防止コーティングは数ミクロン単位の薄膜で、円を描くように磨くと一周ぶん一気に剥がれてしまうことがあります。

持ち込み時の被害状況 — 永久傷とコーティング剥離

当店のマクロ撮影機材で確認したところ、リアカメラ広角側のレンズカバーには次のような状態が記録されました。

  • 表面に放射状の細かいヘアラインキズが多数。深さは浅いものの、本数が多く反射光を乱します
  • 反射防止(AR)コーティングが部分的に虹色のムラとなって剥離
  • レンズカバー外周のブラックマスクにも研磨剤が入り込み、わずかに白く濁った帯状の汚れ
  • カメラベゼル(リング部分)のヘアライン仕上げにも擦過傷

テスト撮影では、晴天屋外で空を入れた構図がほぼ全面ハレーション。室内の蛍光灯を入れたカットは、本来であれば点光源として写るはずの灯具が、直径 1.5cm ほどの白いにじみに広がっていました。広角レンズのオートフォーカスは作動しているものの、被写体エッジのコントラストが大幅に低下しており、AI 写真処理の輪郭強調も効かない状態でした。望遠側(超広角は 13 mini にはないため、シングルレンズの広角のみ)は影響を受けています。

この時点で「コーティングを再塗布で復元」は現実的ではないと判断しました。AR コーティングは真空蒸着の工程で形成されるもので、店舗で液体塗布する方式の市販コートは、性能・耐久性のいずれもメーカー出荷時とは別物となります。

当店での修理 — レンズカバー単体ではなくユニット交換へ

iPhone 13 mini のリアカメラは、サファイアガラスのレンズカバー、ベゼル、IC基板、レンズ本体、OIS 機構が一体に近い構造で、レンズカバーだけを単体で剥がして貼り直すと光軸ずれ・防水パッキン破損のリスクが高くなります。今回は次の手順で復旧しました。

  1. SIM トレイ抜去、画面を丁寧に開き、フレックスケーブルを順に外して基板にアクセス
  2. リアカメラユニットの固定ネジを外し、コネクタを切り離してアセンブリ単位で取り外し
  3. 同型の互換リアカメラユニットを装着、ネジ締めトルクを規定値に合わせて固定
  4. 背面カバー側のレンズ窓ガラス(背面ガラス側のカバー)を清掃
  5. カメラベゼルは外周の擦過傷が目立っていたため、別売パーツで交換
  6. 仮組み状態で純正カメラアプリを起動、フォーカス・OIS・各倍率撮影をテスト
  7. 水準器アプリでセンサー水平を確認、最後に防水テープを再貼付して本組み

お預かりは午前 11 時、お引き渡しは同日 16 時頃となりました。所要時間は機種・在庫状況によって前後します。同じ症状でカメラが曇って見える事例はほかにもあるため、参考までに 同じ症状の他事例 もご覧ください。なお、画面側の作業手順は iPad画面割れ修理の流れ の解説と近い部分があります。

iPhone 13 mini camera 修理事例

修理後の試し撮りでは、夜景の点光源は点として、晴天屋外の空はハレーションなしで撮影できる状態に戻りました。お客様にも撮影サンプルをその場で確認いただき、納得いただいてからお引き渡し。交換した部品に対しては 3 ヶ月の動作保証(落下・水濡れなど使用上のトラブルは対象外、詳細は保証規約ページ)をお付けしています。

今後への教訓 — 曇って見えても、磨くより先に診てもらう

当店の経験上、iPhone のカメラが曇って見える原因の多くは「外側のレンズカバーの汚れ」よりも、内部のセンサー結露・OIS 機構の油滲み・コーティングのナノレベル劣化など、表面を磨いても解決しない要因です。表面の汚れであればマイクロファイバークロスと中性洗剤数滴で十分落ちますし、それで落ちないものは表面より奥に原因があります。

研磨剤は「同じ素材より柔らかい粒子」を選んで初めて意味を持ちます。iPhone のリアカメラに使われているサファイアやガラスは硬度がかなり高く、家庭用ガラス研磨剤の粒子と硬度差が小さいため、磨くほど傷が増える結果になりがちです。さらに表面 AR コートは数ミクロンの薄膜なので、目で見て削れる頃にはコーティングは消失しています。

もし曇り・にじみ・フレアが急に出てきたら、まずは無理に磨かず、フォームからご相談ください。分解前のお見積もりは無料、お見積もり提示後のキャンセルも可能です(分解診断・部品発注後は所定の手数料が発生する場合があります)。料金は機種・症状によって異なるため、 修理料金の目安 を別ページにまとめています。修理の様子は 修理ブログ一覧 でも随時公開していますので、参考になれば幸いです。

店舗は 大阪・松屋町スマエキ(大阪市中央区松屋町住吉 6-26)、営業時間は 10:00〜19:00、定休日は水曜です。来店修理のほか、配送修理もお受けしています。

よくある質問

iPhone 13 mini のリアカメラが曇って見えます。市販の研磨剤で磨いても大丈夫ですか?

おすすめしません。iPhone のレンズカバーには反射防止コーティングが施されており、研磨剤で磨くとコーティング剥離や微細な擦り傷の原因となります。まずはマイクロファイバークロスでの清拭を試し、改善しない場合は内部要因の可能性があるため、お問い合わせフォームよりご相談ください。

DIY 失敗で傷を付けた状態でも、修理を受けてもらえますか?

対応可能です。当店では DIY 後の状態でも症状を確認し、レンズカバー側のみの交換で済むケースか、リアカメラユニット交換が必要かを診断いたします。分解前のお見積もりは無料です。

iPhone 13 mini のリアカメラ修理にはどのくらい時間がかかりますか?

経験上、在庫がある状態であれば作業自体は 2〜3 時間目安(混雑・部品取り寄せ状況により前後)です。当日中のお引き渡しが可能なケースもありますが、状況により後日となる場合もあります。

修理後に画質は元通りになりますか?

リアカメラユニット自体を交換した場合は、撮影画質は新品相当に戻ります。ただし市販の互換部品となる場合があり、純正部品をご希望の場合は事前にお申し出ください。