
1. 「割れたまま使うのは嫌だから」始まった DIY コーティング
持ち込まれたのは 2017 年発売の iPhone X。画面の右上から左下にかけて細い亀裂が走っており、タッチ自体は反応する状態でした。お客様の話では、修理代を浮かせるためにネット上の動画を参考にして、車のヘッドライト用に売られている液体ガラスコート剤を画面表面に塗布したとのこと。
塗ったあとは付属の UV ライトで硬化させ、表面はツルツルに仕上がったように見えたそうです。亀裂のラインは目立たなくなり、本人としては成功した気分だったようでした。ところがロック解除のために顔を近づけても、いつまで経っても画面は開かない。「Face ID を使うには注視が必要です」の表示すら出ず、設定アプリから登録し直そうとしてもエラーで弾かれる状態でした。
当店では DIY 後のトラブル相談を月に 4-5 件ほど受けますが、コーティング剤を画面に塗ってから持ち込まれるケースは年に 2-3 件ほどです。多くは「亀裂を埋めたかった」「フィルムより丈夫にしたかった」という動機で、結果的に別のセンサーを巻き込んでしまうパターンでした。
2. 被害状況 — 表面コーティングが赤外線をブロックしていた
iPhone X 以降の Face ID は、画面上部のノッチ部分にドットプロジェクター・赤外線カメラ・投光イルミネーターなどが並んでおり、可視光ではなく赤外線で顔の凹凸を読み取る仕組みになっています。今回の端末はそのノッチ部分にも、しっかりコーティング剤がかかっていました。
注意: 車のヘッドライト用液体ガラスコート剤は、本来ポリカーボネート製のヘッドライトカバーに使う前提で設計されています。スマートフォン画面のような赤外線を透過させる設計はされておらず、硬化後の樹脂層が赤外線を散乱・吸収してしまう場合があります。
診断機材で確認すると、ドットプロジェクター自体は通電しており、ハードとしては生きていました。ところが投射されたドットパターンが赤外線カメラまで戻ってこない。表面の樹脂層で乱反射しているような挙動でした。お客様にお伝えしたところ「目に見える傷は消えたから余計に悲しい」とのこと。視覚的な仕上がりと、センサーが必要とする光学特性は別物だ、という現実を改めて感じる事例でした。
同じような同じ症状の他事例もここ最近続いており、画面割れを軽視して上から何かを塗る発想は、リスクが高い行為だと言わざるを得ません。
3. 当店での復旧手順 — コーティング除去ではなくユニット交換へ
ご相談いただいた時点で、まずコーティング層を溶剤で剥がせないか検討しました。しかし硬化後の液体ガラスコートはガラス的な構造を持ち、画面側の油性コーティングを傷めずに除去するのは現実的ではありません。無理に剥がせばタッチ層・偏光フィルムまで巻き込んで再起不能になる恐れがありました。
そこで以下の手順で進めました。
- 分解前に外観確認・通電チェック・センサー反応の記録(約 10 分)
- 画面ユニット全体を新品交換し、亀裂とコーティング層を物理的に取り除く
- 交換後の画面で True Tone・タッチ感度・3D Touch 反応を順に確認
- ノッチ部分のセンサーアレイを清掃し、本体側の赤外線投射経路に異物がないか目視点検
- Face ID を再登録 → 通常の明るさ・暗所・斜め顔の 3 パターンで認証テスト
結果として、画面割れと Face ID 認証不能の両方が解消し、お客様は当日のうちに端末を持ち帰られました。お預かり時間は内容によって前後しますが、当店実績では iPhone X クラスの画面交換は 30〜60 分目安となります(在庫状況・作業混雑により変動)。修理料金の目安については機種・症状で異なるため、お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡いただければ個別にお見積もりいたします。
iPad の画面割れにも近い構造的な注意点があり、iPad画面割れ修理の流れとあわせて読んでいただけると、自己流コーティングのリスクがイメージしやすくなるはずです。
4. 今後への教訓 — 「見た目だけ直す」がいちばん危ない
今回の事例から学べることをまとめます。
- 液体ガラスコート剤は素材ごとに用途が決まっており、用途外への転用は別の故障を呼び込みやすい
- iPhone X 以降の機種は画面上部に赤外線センサーが集中しており、ノッチ周辺への塗布は特にリスクが高い
- 表面が綺麗に見えても、内部の光学特性まで保証されているわけではない
- 軽微な亀裂のうちにご相談いただいたほうが、結果として作業範囲が小さく済むケースが多い
当店では 2019 年の創業以来、こうした DIY 後のトラブル端末も受け付けてきました。来店修理だけでなく郵送による配送修理にも対応していますので、遠方の方や仕事帰りに寄る時間が取れない方もご利用いただけます。実は今回のお客様も、最初は別件で 修理ブログ一覧を読み込んでくださっていたそうで、「もっと早く相談していれば」と苦笑いされていました。
所在地は 大阪・松屋町スマエキ(〒540-0017 大阪市中央区松屋町住吉 6-26)。営業時間は 10:00〜19:00、水曜定休です。分解前のお見積もりは無料、提示後のキャンセルもできます(分解診断・部品発注後は所定の手数料が発生する場合あり)。割れた画面の上に何かを塗ろうかと迷ったら、塗る前に一度ご相談ください。表面が無事なほうが、結果として早く・確実にお返しできる端末は多いものです。
よくある質問
車のヘッドライト用液体ガラスコートをスマホ画面に塗っても大丈夫ですか?
推奨できません。ヘッドライト用は素材も光学特性もポリカーボネート前提で設計されており、スマートフォン画面に塗布すると赤外線センサーや偏光層に影響が出る場合があります。当店ではコーティング起因のトラブル端末を年に数件お預かりしています。
塗ってしまったコーティング層だけを剥がしてもらえますか?
硬化後の液体ガラスコートは画面側の機能層を傷めずに除去するのが難しいケースが多く、当店ではユニット交換でのご提案が中心となります。状態によって判断が変わるため、まずは現物を拝見させてください。
Face ID が認証不能になったら本体ごと交換ですか?
原因が画面側にある場合は画面ユニットの交換で復旧するケースが多く、ドットプロジェクター本体の故障の場合は別途調整が必要です。診断のうえで切り分けてご説明いたします。
DIY 失敗後の持ち込みでも対応してもらえますか?
対応可能です。分解履歴・塗布物の有無を事前にお伝えいただけると診断がスムーズに進みます。郵送での配送修理にも対応しています。
iPhone X はもう古い機種ですが、まだ画面交換の部品はありますか?
経験上、iPhone X クラスの部品は流通しており、当店でも継続して対応しています。在庫状況によりお預かり日数が前後する場合がありますので、来店前にお問い合わせフォームからご相談ください。