2019 年から大阪・松屋町で修理を続けていますが、当店ではリチウムイオン電池の取り扱いを誤った持ち込みを月に 2-3 件は見ます。先日も、その典型例といえる iPhone 6 が運ばれてきました。お客様ご本人が「ホームセンターで買った油圧プレス機材で押し戻した」と説明される、なかなか強烈な状態でした。事実関係だけをそのままお伝えしながら、何が起きていたのかを順に追っていきます。

持ち込み時の状況とDIYの経緯
来店された時点で、iPhone 6 は液晶パネルが筐体から数ミリ浮き、背面側もわずかにたわんでいる状態でした。お話を伺うと、もともと使用 5 年目あたりで膨らみに気付き、「とりあえず元の厚みに戻せば使えるだろう」とご判断されたとのこと。ホームセンターで小型の油圧プレス機材を購入し、パネルを外さずに本体ごと挟み込んで圧縮されたそうです。
リチウムイオン電池の膨張は、内部のセパレータ(正極と負極を隔てる薄膜)が劣化し、ガスが発生して起こる現象でして、外から押し潰せば直るというものでは、残念ながらありません。圧力がかかった瞬間、内部で短絡(ショート)が発生し、煙のようなものが出たと、お客様自身も語っておられました。
その後、電源は完全に入らず、バイブも振動せず、充電器を挿しても無反応。リンゴマークすら出ない状態で、数日放置してから当店へ来られた、という流れになります。同じ電源不能でも、原因の入口がここまで明確なケースはなかなか珍しいものです。
分解して見えた被害状況
お客様の同意のもと診断のために分解した結果、以下のような状況が確認できました。
注意: 膨張したリチウムイオン電池は、押し潰す・穴を開ける・加熱するといった外的負荷を加えると、発熱・発煙・発火の可能性があるとされています。NITE(製品評価技術基盤機構)も繰り返し注意喚起をしている領域です。素人判断での圧縮はおこなわず、専門業者または自治体の回収ルートでの処分をご検討ください。
まず電池本体ですが、外装フィルムが破れ、内部から透明〜黄色がかった電解液が滲み出ていました。電解液は可燃性かつ皮膚刺激性があり、ロジックボード側へも回り込んで、CPU 周辺・電源管理 IC 付近のシールド缶まで濡れた跡が残っていました。
液晶パネルはタッチ IC 接続部のフレキが折れ、表示自体は試みても出ず。さらに圧迫の影響で、ロジックボード裏面にヘアラインクラックが 1 本走っており、これが致命傷となっていました。当店の顕微鏡で確認したところ、電源系のラインが 2 本切れていたようで、これでは充電器を挿しても起動信号がそもそも届きません。
同じバッテリー膨張でも、通常の経年劣化で来店された場合は、新品セルへ交換するだけで 30 分目安で復帰できることが多いものでした。今回はそこから、基板修理という別レイヤーの作業が必要になっていた、というわけです。同じバッテリー症状の他事例もあわせてご覧いただくと、症状の進行度合いの違いが見えてきます。
当店での復旧プロセス
復旧の手順としては、大きく 3 段階に分けてお預かりしました。お客様には、各段階ごとに一度ご連絡を差し上げ、ご判断いただく形です。
第 1 段階は安全確保。膨張電池をクリーンな環境で取り外し、電解液で汚染された箇所を 99% イソプロピルアルコールで丁寧に洗浄します。基板の表面実装部品は熱と液体に弱いため、温度管理を慎重におこないながらの作業となりました。約 60 分。
第 2 段階は基板修理。顕微鏡下でクラックの位置を特定し、切れた電源ラインをジャンパー線で再構築。ロジックボードの基板修理は、機種・症状によって所要時間が大きく変わりまして、今回は実働 4 時間ほどかかりました。電源 IC 自体に致命的な損傷がなかったのは不幸中の幸いでした。
第 3 段階は組み戻しと動作確認。新品バッテリーセルへ交換し、再起動 → 充電動作 → 各種センサーの動作までを通しでチェック。データに関しては、ほとんどの修理でデータを保持したまま対応可能ですが、今回のような重度故障では事前バックアップ推奨でした(基板にダメージがある場合は復旧失敗のリスクが残るため)。
最終的に、起動・通話・データ読み出し全て復旧。お客様には「もう物理的に復活しないと諦めていた」とおっしゃっていただけました。詳しい流れの参考としては、画面側の事例ですが iPad画面割れ修理の流れもご覧いただくと、当店での進め方のイメージがつかみやすいかと思います。
同じ事故を防ぐために — 今後への教訓
今回の件から、ご自身の端末を守る視点で 3 つだけ整理しておきます。
1 つ目、膨張は「使えるか使えないか」ではなく「危険状態に入ったかどうか」のサインだ、という認識でした。画面が浮いてきた・背面が膨らんできたと感じた時点で、充電をやめ、火気から遠ざけ、可能であれば電源も切る判断が安全側です。当店では月に 3-4 件、膨張のご相談をいただきますが、早めに動かれた方ほど、軽い作業で済んでいる印象があります。
2 つ目、インターネットで購入した部品での DIY や、機械的に押し戻す処置は、電池構造の特性上どうしてもリスクが残ります。経験上、「自力でやってダメだった」状態は、最初から修理に出した場合と比べて、復旧難度が一段階あがる傾向にありました。これは性能を断言する話ではなく、当店実績ベースの観察として、です。
3 つ目、判断に迷ったら、お問い合わせフォームから症状の写真を添えてご連絡いただくのが確実です。分解前のお見積もりは無料、お見積もり提示後のキャンセルも可能です(分解診断・部品発注後は所定の手数料が発生する場合があります)。料金は機種・症状によって異なるため、フォームよりお気軽にご連絡ください。修理料金の目安のページに、症状ごとの考え方をまとめています。
当店、瑞興株式会社(スマエキ)は 大阪・松屋町スマエキとして、〒540-0017 大阪市中央区松屋町住吉 6-26 にて 10:00〜19:00(水曜定休)で営業しております。来店修理のほか、遠方の方には配送修理(郵送依頼)も対応。交換した部品に対しては 3 ヶ月の動作保証がついております(落下・水濡れなど使用上のトラブルは対象外、詳細は保証規約ページ)。修理後は技術基準適合確認のうえお引渡しいたしますので、ご安心ください。他の症例については 修理ブログ一覧からどうぞ。
よくある質問
膨張したバッテリーを自分で押し戻すのは本当に危険ですか?
外的な圧縮は内部短絡・発熱・発煙のリスクがあるとされ、NITE も注意喚起をおこなっている領域です。膨張に気付いた段階で充電を中止し、専門業者へのご相談、または自治体の回収ルートをご検討ください。
DIY で失敗してしまった iPhone 6 でも修理できますか?
状態次第となります。当店では基板修理にも対応しており、今回のような電解液漏出+基板クラックでも復旧した事例があります。まずはお問い合わせフォームから症状をお知らせください。
データはそのまま残りますか?
ほとんどの修理でデータを保持したまま対応可能ですが、基板修理・水没等の重度故障では事前バックアップを推奨しております。診断時にリスクをご説明いたします。
見積もりだけでもお願いできますか?
分解前のお見積もりは無料、お見積もり提示後のキャンセルも可能です。ただし分解診断・部品発注後は所定の手数料が発生する場合がありますので、その旨ご承知おきください。
遠方ですが郵送でも対応してもらえますか?
配送修理にも対応しております。お問い合わせフォームよりご連絡いただければ、送付方法と流れをご案内いたします。営業時間は 10:00〜19:00(水曜定休)となります。