2019 年から大阪・松屋町でスマートフォンの修理を専門に対応してきた当店ですが、月に 3-4 件は「自分で直そうとして悪化させてしまった」というご相談が入ります。中でも先日お預かりした iPhone 12 mini のケースは、被害の広がり方が記憶に残るものでした。バッテリー膨張という比較的よくある症状から始まり、最終的にはロジックボードの腐食にまで進んでいたのです。
ご本人の許可をいただきましたので、経緯を交えながら現場で何が起きていたのかを共有します。同じ機種をお使いの方、あるいは膨張に気づいて焦っている方の判断材料になれば幸いです。

塩水放電という選択 — 失敗の経緯
お持ち込みになったのは 30 代の男性のお客様。2 年ほど使用された iPhone 12 mini で、画面の浮き上がりに気づいたのが約 2 週間前だったそうです。背面のリンゴマーク側にうっすら隙間が見え、フレームから液晶がせり上がっている状態。これは典型的なバッテリー膨張のサインでした。
このタイミングで当店のような修理店、あるいはメーカー窓口に相談していただければ、画面とバッテリーの交換だけで済むケースが大半です。ところがお客様は SNS で「膨張したリチウム電池は塩水に浸けて放電させてから処分する」という情報を見つけ、これを自宅で実践されてしまいました。
注意:塩水放電は「廃棄前提のバッテリー単体」を安全に処理する手順として紹介されることがある方法です。組み立てられた状態のスマートフォン本体を浸ける処理ではありません。本体ごと水分にさらすと、後述するとおり別の故障が発生してしまいます。
お客様はバッテリーだけを取り外す前に、本体ごとボウルの塩水に約 10 分浸け、その後タオルで拭いて電源を入れようとされたとのこと。当然のように起動はせず、慌ててドライヤーで温風を 5 分ほど当てた後、当店までお持ちになりました。
分解して見えた被害の広がり
受付時点で外観から確認できたのは、画面の浮き、Lightning コネクタ周辺の白い結晶、そしてサイドキー付近のわずかな変色でした。お客様には「分解前のお見積もりは無料、お見積もり提示後のキャンセルも可能(分解診断・部品発注後は所定の手数料が発生する場合があります)」とお伝えしたうえで、診断作業に入らせていただきました。
分解して内部を確認したところ、想定以上に被害が進行していました。
- バッテリー本体は予想どおり大きく膨らみ、フレキケーブルの一部が変形
- ロジックボード上の複数箇所に塩分由来と思われる白い析出物が付着
- 充電 IC 周辺と Wi-Fi モジュール周辺で銅箔の変色(腐食の初期段階)
- イヤースピーカーのコネクタピンに緑青(ろくしょう)が発生
- 水没インジケータは当然のように赤反応
塩水は真水よりも導電性が高いぶん、内部の微細な回路に通電したまま反応が進みます。さらにドライヤーの熱風で水分が蒸発する過程で、塩分だけが結晶として基板上に残った状態になっていました。短時間でショートと腐食の両方が同時に進んでしまった、というのが診断の所見です。
「電源が入らないだけだと思っていた」とお客様。実際にはバッテリー交換だけでは復旧しない、いわゆる重度故障の領域に踏み込んでしまったケースでした。同じバッテリー系のトラブル事例については 同じ症状の他事例 もあわせてご覧ください。
当店で行った復旧作業
診断結果をご説明し、お客様から「データだけでも残れば」とのご要望をいただきましたので、データ救出を最優先に作業を進めました。お預かり期間は分解診断から完了引き渡しまで合計で 4 日となりました。基板修理工程が入る場合、機種・症状によっては当日返却可能なケースもありますが、今回のような腐食進行ケースでは数日単位のお預かりが目安となります。
実際の工程は次のとおりです。
- 膨張バッテリーを発火リスクに配慮して安全に取り外し
- ロジックボードを取り出し、専用洗浄液(イソプロピルアルコール 99%)で塩分と腐食物を除去
- 超音波洗浄機で残留物を物理的に分離
- 顕微鏡下で充電 IC・Wi-Fi モジュール周辺の腐食を確認、必要箇所をリワーク
- イヤースピーカーコネクタ・Lightning コネクタを新品交換
- 新しいバッテリーと画面アセンブリを取り付け、起動確認
- 充電・通話・Wi-Fi・Face ID・カメラ・スピーカーの全項目を実機チェック
結果として起動が回復し、内部のデータも保持したままお返しすることができました。ほとんどの修理でデータを保持したまま対応可能ですが、基板修理・水没等の重度故障では事前バックアップを推奨しています。今回のお客様には、お渡し時に iCloud と PC 双方のバックアップ手順を改めてご案内しました。
交換した部品に対して 3 ヶ月の動作保証(落下・水濡れなど使用上のトラブルは対象外、詳細は保証規約ページ)を付帯しています。修理後は技術基準適合確認のうえお引渡しいたしました。
このケースから持ち帰っていただきたい教訓
店主の立場から、今回の事例を客観的に振り返って共有しておきたい点が 3 つあります。
1 つ目は、バッテリー膨張は「単独の故障」のうちに対処したほうが結果的に作業範囲が小さくなる、という事実です。膨張をそのままにすると画面アセンブリやフレームが歪み、放置時間が長いほど周辺部品への二次被害が広がります。
2 つ目は、ネット上に流通する処分手順を「組み立てられたスマートフォン本体」に当てはめないこと。塩水放電は廃棄前提のセル単体に対する手順として紹介されているもので、防水パッキンの劣化した中古端末には別の意味でリスクがある、と理解しておいていただくのが安全です。
3 つ目は、水分や薬品にさらしてしまった後の「ドライヤー温風」も状況によっては腐食を加速させる、という点。高温で水分を飛ばす前に、まずは電源を絶って当店のような修理窓口にご連絡いただくほうが、内部の被害は小さく抑えられます。
当店は 10:00〜19:00(水曜定休)で来店修理と配送修理に対応しております。来店が難しい方には郵送依頼も承っています。修理事例をもう少し読みたい方は 修理ブログ一覧、画面割れ系のフローを把握されたい方は iPad画面割れ修理の流れ も合わせて参考にしてください。
店舗の場所や対応機種の詳細は 大阪・松屋町スマエキ をご覧いただき、料金は機種・症状によって異なりますので 修理料金の目安 を参照のうえ、お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。膨張に気づいた段階でご相談いただければ、対応の幅も広く取れます。
よくある質問
バッテリー膨張に気づいた段階でやってはいけないことは何ですか
充電したまま使い続けること、画面を強く押し戻そうとすること、本体を水分にさらすことの 3 点が当店の実体験上のリスクです。膨張に気づいた時点で電源を落とし、火気から離した場所で保管したうえでご相談ください。
塩水に浸けてしまった iPhone でもデータは取り戻せますか
状態によります。今回の iPhone 12 mini のように腐食が進む前にお持ちいただければ、洗浄とパーツ交換でデータごと復旧できる事例がほとんどです。逆に何度も電源投入を試した後ですと、ショートが広がり救出率が下がる傾向にあります。
バッテリー交換だけのつもりが基板修理になることはありますか
あります。膨張を放置した期間が長い、すでに水没歴がある、結露が起きやすい環境で保管されたなどの要因で、分解時に腐食が見つかるケースが月に数件あります。分解前のお見積もりは無料ですので、まずは診断にお持ちください。
お預かり期間の目安を教えてください
バッテリー交換単独であればお預かり時間で約 30 分目安(在庫・混雑により前後)。今回のような腐食を伴う重度修理では数日のお預かりとなる場合が多く、当店実績では 3〜5 日が目安です。
郵送修理にも対応していますか
対応しています。大阪・松屋町まで来店が難しい方には配送修理を承っており、お問い合わせフォームから流れをご案内いたします。