2019 年から大阪・松屋町でスマートフォン修理の専門店をしておりますと、年に数件ですが「ネットで見た裏ワザを試したらかえって悪化した」というご相談が舞い込みます。先日お預かりした iPhone 12 もそのひとつでした。お客様ご本人も「やってしまった」と苦笑いされていましたが、当店としては笑い事では済まない状態。せっかくですので、何が起きたのか、当店でどう戻したのか、そして同じ轍を踏まないためにどう考えればよいのかを、店主の視点から記録として残しておきます。

iPhone 12 screen-crack 修理事例

シリコンスプレーで画面を「再融合」させようとした経緯

持ち込まれたのは iPhone 12、ジェットブラックではないブルーの個体でした。お話を伺うと、半年ほど前に角から落とした際にディスプレイの右上から斜めにヒビが入り、そのまま使い続けていたとのこと。ある日 SNS で「シリコンスプレーを画面に薄く塗布して数時間放置するとガラスが再融合する」という投稿を見て、自宅にあったシリコンスプレーを試した、という流れでした。

結果として、画面のヒビは見た目には少しだけ目立たなくなったように感じられたそうです。ところがその数時間後、画面のタッチがほぼ反応しなくなり、表面も油膜のようにベタついてしまった、と。最終的には Face ID のスワイプもできず、強制再起動でしか操作できない状態でご来店されました。月に 3-4 件は DIY 後のトラブルをお預かりしておりますが、シリコンスプレーを使った例は当店では今回が初めてでした。

注意: シリコンスプレーは潤滑剤・離型剤であり、ガラスを溶かしたり接着したりする性質はありません。SNS 等で見かける「再融合」という表現は化学的根拠を確認できておりませんので、鵜呑みにされないようご注意ください。

持ち込み時の被害状況 — タッチ不感とケースが付かないベタつき

受付カウンターでお預かりした時点での状態を整理しておきます。
第一に、画面表面全体に薄い油膜のような層が残っており、指で触れるとキュッという音すら出ないほどの摩擦低下。第二に、タッチ操作はホーム画面下半分でわずかに反応する程度、上半分はほぼ無反応。第三に、お客様がお持ちだった手帳型ケースが、内側のフィルム素材と画面表面が貼り付くようにくっついてしまい、いったん閉じると開けるのに苦労する、という状態でした。

当店で 同じ症状の他事例 を確認しても、ヒビ + 液体侵入のパターンはあるものの、潤滑剤系をお客様自身が塗布したケースはレアです。ディスプレイのフレキシブルケーブル接続部、特にデジタイザ(タッチ層)側にスプレーが回り込んでいる可能性が高いと判断し、まずは分解前のお見積もりをご提示しました。料金は機種・症状によって異なりますので、お見積もり提示後にキャンセルされる場合も分解前であれば手数料は頂戴しておりません。

当店で行った復旧の手順

お見積もりにご納得いただいたうえで、作業に着手しました。iPhone 12 のディスプレイ交換は、目安として 30 分前後でお戻しできるケースが多いのですが、今回は表面のベタつきを除去する工程と、内部に侵入した可能性のある油分を確認する工程が加わるため、お預かり時間は数時間頂戴しています。

まずバッテリーを切り離した状態で旧ディスプレイを取り外し、フレーム周辺に油分が回り込んでいないかを目視と無水エタノールで確認しました。幸い、フレーム底部のバッテリーコネクタ付近までは到達しておらず、デジタイザのフレキ接点が油膜で導通不良を起こしていたことが原因と特定できました。新しいディスプレイユニットへ交換し、Face ID 関連の部品を旧画面から移植、防水パッキンを貼り直して組み上げ。最後にタッチ全領域、True Tone、近接センサー、Face ID、スピーカーを動作確認し、3 ヶ月の動作保証(落下・水濡れなど使用上のトラブルは対象外)をお付けしてお返ししました。

修理後は技術基準適合確認のうえお引渡しいたしますので、その点もご安心ください。当日のうちにお戻しできるかは在庫と混雑次第ではあるものの、機種・症状によっては当日返却可能なケースもあります。詳しい流れは iPad画面割れ修理の流れ のページが iPhone でも参考になりますので、初めての方はご一読いただくとイメージしやすいはずです。

今後同じ轍を踏まないために — DIY 前に押さえておきたいこと

「自分で直せそう」と思える時点で、その方は機械いじりにある程度の素養があるはずなので、DIY 自体を頭ごなしに否定するつもりはありません。ただ今回のケースから見えてくる教訓を 3 つほど。

ひとつめは、ガラスとタッチセンサーは別物だということ。iPhone 12 のディスプレイは、表面ガラス・偏光フィルム・OLED・デジタイザが一体化した構造で、表面に何かを塗布すると毛細管現象で内部にも回り込みます。ふたつめは、SNS や動画サイトの「裏ワザ」は出典と再現性を必ず確認すること。投稿者が再現できても、ご自宅の環境(温度・湿度・部品ロット)で同じ結果が出るとは限りません。みっつめは、ヒビが入った時点でなるべく早く修理を依頼するのが結局のところ短い道のりだ、ということ。今回のお客様も「最初に持ってくればよかった」と仰っていました。

ワンポイント: 画面ガラスにヒビが入っていても、内部の液晶/OLED が無事ならタッチは反応します。逆に「タッチが効かないからガラス交換だけで十分」とは限らず、内部のデジタイザまで損傷しているケースも経験上少なくありません。

当店では分解前のお見積もりは無料で、ほとんどの修理でデータを保持したまま対応可能です(基板修理・水没等の重度故障は事前バックアップ推奨)。詳しくは 修理ブログ一覧 に過去事例をまとめておりますので、似た症状を探していただくと参考になります。お住まいが大阪近郊でしたら 大阪・松屋町スマエキ まで、遠方の方は配送修理(郵送依頼)も承っております。

料金感を先に把握したい方は 修理料金の目安 をご覧いただくとイメージしやすいかと思います。営業は 10:00〜19:00、水曜定休。お問い合わせフォームよりお気軽にご相談ください。

よくある質問

シリコンスプレーで画面のヒビは本当にふさがりますか?

シリコンスプレーは潤滑剤の一種で、ガラスを溶かしたり接着したりする性質は確認できておりません。今回のお客様のように、表面のベタつきや内部への油分侵入によるタッチ不良を引き起こすリスクが高いとお考えください。

DIY で失敗した iPhone 12 でも修理してもらえますか?

はい、当店では DIY 後のトラブルでも分解診断の上で対応可能です。ただし基板まで損傷が及んでいる場合は別途お見積もりとなりますので、まずはお問い合わせフォームから症状をお知らせください。

画面交換だけでタッチも直りますか?

iPhone 12 のディスプレイはタッチセンサー(デジタイザ)が一体化しているため、ディスプレイ交換でタッチ不良も同時に解消することがほとんどです。ただし内部基板側に液体が回っている場合は追加で基板の確認が必要となります。

預かり時間はどれくらいですか?

iPhone 12 の画面交換はお預かり時間 30 分前後を目安としておりますが、在庫状況や混雑、追加の清掃工程によって前後いたします。今回のような DIY 後の案件は数時間〜当日いっぱいいただく場合もあります。

遠方からの配送修理にも対応していますか?

はい、大阪府外からの郵送修理も承っております。お問い合わせフォームから症状を伝えていただき、お見積もりにご納得後に発送いただく流れです。返送までの目安は内容によって変わります。