2019年から大阪市中央区松屋町で営業しているスマエキでは、自己修理に失敗した端末の救済依頼が月に4〜6件ほど舞い込みます。先日お預かりしたのは、iPhone SE 第1世代。お客様ご自身が「バッテリーが弱ってきたので電圧を測ってみたかった」とテスター棒を直接バッテリー端子に当てたところ、火花と白煙が上がり、画面が真っ暗になったまま起動しなくなったとのことでした。
持ち込まれた時点で本体は完全な文鎮状態。匂いは焦げ臭く、リアケースを開けるまでもなく内部で何かが起きたことが伝わってきました。今回は、この一台がどのような経緯でこうなり、どこまで復旧できたかを、修理現場の事実としてそのまま記録します。同じ症状の他事例もあわせてご覧いただければ、判断の参考になるかと思います。
テスター棒を直接バッテリー端子に当てた、その瞬間
お客様の説明はこうでした。「YouTubeでバッテリーの劣化判定の動画を見て、自分でも電圧をチェックしたくなった」。ネットで互換バッテリーと安価なデジタルテスターをセットで購入し、まずは古いバッテリーの状態を測ろうとした、と。ここまでは珍しい話ではありません。問題はその次の手順でした。
iPhone SE 第1世代のバッテリーは、本体側のロジックボードへフレキシブルケーブルとコネクタで接続されています。本来であれば、コネクタを外したうえでバッテリー単体の端子を測定するのがセオリー。ところがお客様は、バッテリーをロジックボードに繋いだまま、しかも電源が入った状態で、テスター棒の鋭い金属先端を狭い端子部に直接押し当てたのです。
警告:通電状態のリチウムイオンバッテリー端子に金属プローブを直接当てる行為は、わずかなブレで端子間ショート(短絡)を起こします。短絡電流は瞬時に数十A単位に達し、発煙・発火・基板焼損のいずれもが現実に起こります。
テスター棒の先端がプラス側端子に触れた瞬間、隣のシールド金具に滑って接触。短絡が起き、白煙が立ち上がり、お客様は反射的に端末を放り出したそうです。火傷はなかったのが何よりでした。が、端末側はそうもいきませんでした。
開腹して目にした被害状況 — バッテリー膨張と基板の焦げ跡
当店の作業台で本体を開けると、まずバッテリー本体が全体に薄く膨張していました。短絡で内部温度が急上昇したことの証拠です。膨張したバッテリーはそれ自体が発火リスクを持つため、絶縁手袋と耐熱トレーで慎重に取り外し、店内の金属容器に隔離しました。
続いてロジックボードの確認。バッテリーコネクタ周辺のチップ抵抗が一つ、明らかに黒く焦げて剥がれかけていました。さらにコネクタ自体のピンが二本、樹脂が溶けて変形しています。短絡経路上にあったPMIC(電源管理IC)周りには、煤(すす)が薄く付着していました。これらは目視で確認できる被害で、見えない部分にもダメージが及んでいる可能性が十分にあります。
iPhone SE 第1世代は2016年発売の機種で、すでに販売開始から10年近くが経過しています。基板そのものは現行機種に比べてシンプルですが、PMICが死ぬと電源系統全体が立ち上がらず、画面も無反応のまま。今回の症状はまさにその典型でした。修理料金の目安は機種・症状によって異なるため、こうした重度のケースは事前に分解診断のうえお見積もりをお出ししています。
復旧作業 — 焦げチップ交換とコネクタ移植で起動まで
診断結果をお客様にご共有し、復旧の方向で作業に入りました。手順は以下の通りです。
- 膨張バッテリーの安全な廃棄ルート確保(膨張品は再使用不可)
- 焦げたチップ抵抗の特定と、同規格品への交換
- 溶損したバッテリーコネクタを、ジャンク基板から移植
- PMIC周辺のクリーニングと、テスターでの導通確認
- 新品互換バッテリーへの差し替え後、慎重に通電テスト
作業時間は実働で約2時間半。SE 第1世代のロジックボードは細かい部品が密集しているため、顕微鏡下でのマイクロはんだ作業となります。最初の通電テストでアップルロゴが表示されたときは、お客様も一緒に画面を覗き込んでいて、思わず「ついた」と声が漏れていました。
その後、iOSが正常に立ち上がり、バッテリー残量・充電動作・Wi-Fi・Touch ID・カメラ・スピーカー・通話まで一通り確認。データもそのまま残っていました。ほとんどのケースでデータを保持したまま対応可能ですが、今回のような重度故障は事前バックアップを推奨しています。詳しい流れはiPad画面割れ修理の流れのページでも参考になる手順を紹介しています。
今回の事例から学んでおきたいこと
「自分で直したい」というお気持ちは、修理屋として理解できます。ただ、リチウムイオンバッテリーは小さな化学プラントのようなもので、扱いを誤ると当事者の身体にも危険が及びます。今回はたまたま発火に至らず、火傷もなく、端末も復旧できました。経験上、ここまで条件が揃って助かるケースは多くありません。
覚えておきたいポイント:①通電中のバッテリー端子に金属を直接当てない、②膨張したバッテリーは押す・刺す・捨てる(燃えるゴミ)を絶対にしない、③異臭や白煙が出たら即座に屋外の不燃物の上に置く。これだけでも、被害の桁が変わります。
もし「ネットで部品を買ったが交換に自信がない」「途中まで分解して止まってしまった」という段階でしたら、その状態のままでお持ち込みいただいて構いません。むしろ無理に組み戻されてからの方が、被害状況が読み取りにくくなります。当店では分解前のお見積もりは無料、お見積もり提示後のキャンセルも可能です(分解診断・部品発注後は所定の手数料が発生する場合があります)。
iPhone SE 第1世代のような長く愛されてきた機種は、部品供給がそろそろ細くなる時期に入っています。だからこそ「壊してから来る」より「不安に思った段階で見せに来る」ほうが、結果的に端末を長く使える道だと感じています。大阪・松屋町スマエキでは、こうしたDIY後の救済も日常的にお預かりしています。他の修理記録は修理ブログ一覧にまとめていますので、ご自身の機種に近い事例を探してみてください。
営業時間は10:00〜19:00、水曜定休。ご来店も配送修理(郵送依頼)もお気軽に。修理後は技術基準適合確認のうえお引渡しいたします。交換した部品に対しては3ヶ月の動作保証付き(落下・水濡れなど使用上のトラブルは対象外、詳細は保証規約ページ)です。
よくある質問
DIYで発煙させた後、自分でバッテリーを抜いて持ち込むべきですか?
膨張・発煙したバッテリーはご自身で外そうとせず、そのままの状態でお持ちください。膨張品は穴を開けたり押したりすると再発火の恐れがあります。可能であれば不燃物の上で電源を切り、金属容器か紙袋に入れてご持参いただけると安全です。
iPhone SE 第1世代のような古い機種でもバッテリー周りの基板修理は対応できますか?
機種・症状によりますが、SE 第1世代を含む旧世代iPhoneの基板修理は当店で日常的にお預かりしています。チップ抵抗や電源管理IC周辺の焼損についても、ジャンク基板からの移植で対応できるケースがあります。事前の分解診断で復旧可否をお伝えします。
DIY失敗の状態でもデータは残せますか?
ほとんどのケースでデータを保持したまま対応可能ですが、基板焼損・水没など重度故障では事前バックアップを推奨しています。今回のSE 第1世代の事例ではデータは残せましたが、必ず保証できるものではないため、可能な範囲で別端末や雲ストレージへの控えをお願いしています。
見積もり後にキャンセルしたら料金は発生しますか?
分解前のお見積もりは無料、お見積もり提示後のキャンセルも可能です。ただし分解診断や部品発注に進んだ後のキャンセルでは、所定の手数料が発生する場合があります。詳しくはお問い合わせフォームからご相談ください。
配送での修理依頼にも対応していますか?
対応可能です。大阪市中央区松屋町住吉の店舗まで郵送いただければ、到着後に診断・お見積もりのうえご連絡します。発煙履歴のあるバッテリーは輸送上のリスクがあるため、発送前に一度お問い合わせフォームよりご相談ください。