先日、画面に深いひびが入った iPhone 14 Pro Max を持ち込まれたお客様がいらっしゃいました。一見ガラス面が妙にツヤッと光っており、よく見ると透明な樹脂のような層が画面全体を覆っているのです。お話を伺うと、ご自身で 100 円ショップのクリスタルレジン硬化液を購入し、ひび割れの段差をならす目的で塗布、UV ランプで硬化させたとのことでした。
「ひびは消えた気がしたんですが、画面の上の方が反応しなくなって、Dynamic Island が消えたままなんです」— ご来店時のひと言が、今回のケースの本質を表していました。当店スマエキ(大阪・松屋町、2019 年から営業)では、月に 3-4 件ほどこうした DIY 起因のトラブルが持ち込まれます。今回は実例をもとに、何が起きていたのか、どう復旧したのかを共有します。

1. 何が起きたのか — DIY の経緯
お客様によると、落下から数日経った時点でひびが広がってきたため「とりあえず段差を埋めて様子を見たかった」とのこと。ネットで「液体ガラス」「レジンで補修」といった検索をされ、100 円ショップで入手できるクリスタルレジン硬化液(UV 硬化型)を選ばれたそうです。手順は以下のようなものでした。
- 画面のひび部分にレジンを少量たらす
- つまようじで全体に薄く伸ばす
- UV ランプ(同じく 100 円ショップ購入)で約 5 分硬化
- 「段差が消えるまで」もう一度同じ作業を 2 回繰り返した
結果としてレジンは画面の上端 — つまり Dynamic Island の周囲とイヤースピーカー開口部にも回り込みました。さらに UV ランプを近距離で当て続けたことで、本体上部がかなり熱を持ったとのことです。同じ症状の他事例でも、樹脂系の補修剤を試されたケースがいくつかあり、共通するのは「平らに見えるようになった」段階で別の症状が顕在化することでした。
⚠️ 注意: 画面のガラス面はメーカー設計上、近接センサー・環境光センサー・Face ID 投光器など複数の光学部品と連動しています。樹脂で覆うと、これらの光路が遮られ、見た目には分からない機能不全が起きるケースがあります。
2. 持ち込み時の被害状況
当店で初期診断を行ったところ、以下の症状が確認できました。
- Dynamic Island が反応しない — 着信や音楽再生時の領域拡張が起きず、表示自体が暗いまま。樹脂層が TrueDepth カメラ周辺の赤外線投光器をぼかしており、近接センサー判定が正常に返ってこない状態でした。
- Always-on Display の駆動異常 — ロック時に常時表示が点いたり消えたりを繰り返し、バッテリー消費が通常の 2 倍以上に増加。環境光センサーが樹脂越しに「常に薄暗い」と誤検知していたためと考えられます。
- イヤースピーカーから音がこもる — レジンが開口部の網目に入り込み、通話時の声がモゴモゴと聞こえる状態。
- 画面上部のタッチ反応低下 — 樹脂の厚みでタッチ検出感度が落ちており、上から 1/4 ほどの領域でスワイプが効きにくい。
つまり、画面割れという 1 つの問題を覆うために塗布した樹脂が、結果的に 4 系統のセンサーと音響部品に影響を及ぼした、というのが現場での所見でした。
3. 当店での復旧手順
修理は段階的に進めました。まずお預かり前にご署名いただく見積書で「樹脂硬化済みのため、剥離工程で予期せぬ追加破損が発生する可能性がある」旨をご了承いただいた上で着手しています。当店では分解前のお見積もりは無料、提示後のキャンセルも可能です(ただし分解診断・部品発注後は所定の手数料が発生する場合があります)。
具体的な工程は以下のとおりでした。
- 樹脂層の機械的除去: 加熱で軟化させつつ、専用の樹脂剥離ブレードで Dynamic Island 周辺・イヤースピーカー開口部・上端ベゼルから慎重に除去。完全硬化したクリスタルレジンは想定以上に粘着が強く、この工程だけで 90 分目安となりました。
- 近接センサー・環境光センサーの清掃: 純水ベースのクリーナーと無塵クロスで光学窓を磨き、機能テスト用治具で受光感度を確認。
- 画面アセンブリ交換: ひび割れ自体は既に進行していたため、画面アセンブリを新品(動作保証付き)に交換。Apple 純正同等の OLED パネルで、Dynamic Island の検出領域が正しく機能するかを実機で確認しました。
- イヤースピーカーメッシュ清掃: 樹脂が侵入していた網目部分は超音波洗浄で除去。
- センサーキャリブレーション: Face ID とディスプレイ調光の自動調整を実施。Always-on の挙動が正常に戻ったことを 30 分の通電テストで確認。
- 動作確認: 通話・着信時の Dynamic Island 拡張、ロック中の Always-on 切替、上部タッチ応答、すべて問題ないレベルに回復。
お引き渡しまでは合計で当日含め約 1 日半。樹脂剥離が予想以上に手間取ったため、通常の画面交換よりはかなり時間がかかったケースです(機種・症状によって所要時間は前後します)。修理後は技術基準適合確認のうえお引き渡しいたしました。当店では交換した部品に対して 3 ヶ月の動作保証をお付けしています(落下・水濡れなど使用上のトラブルは対象外、詳細は保証規約ページをご参照ください)。iPad画面割れ修理の流れと基本的な工程は近いものの、iPhone 14 Pro Max は Dynamic Island まわりのセンサー集積度が高く、より神経を使う作業となりました。
4. 今後への教訓 — 樹脂補修を検討される前に
今回のお客様は「ひびを埋めるだけのつもりだった」のですが、結果として 4 系統の機能に影響が出ました。経験上、樹脂や接着剤系の DIY 補修で問題が起きやすいポイントは以下のとおりです。
- 液体は必ず広がる — 「ひび部分だけ」に塗ったつもりでも、毛細管現象で隣接する開口部やセンサー窓に流れ込みます
- UV 硬化型の樹脂は画面下のディスプレイ駆動チップにも熱影響を与える可能性があります
- 一度硬化した樹脂は溶剤で安全に除去できないものが多く、剥離作業自体が新たな破損リスクとなります
- 近接センサーや環境光センサーの位置はモデルごとに異なり、見た目には判別できません
ひびが入った段階で「拡大しないよう一時的にしのぎたい」という気持ちはよく分かります。その場合は市販のガラスフィルムを上から貼る程度にとどめ、画面交換のタイミングをご相談いただく方が、結果的に短時間・低リスクで解決するケースが多いというのが当店の実感です。
もちろん、ご自身での修理を全否定するつもりはありません。ただ「画面の上を覆う」タイプの補修は、上記のようなセンサー連鎖トラブルが起きやすいことだけ知っておいていただければと思います。詳しい料金は機種・症状によって異なりますので、修理料金の目安のページか、お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。
当店大阪・松屋町スマエキは来店修理のほか、遠方の方には配送修理(郵送依頼)も承っております。営業時間は 10:00〜19:00、水曜定休。今回のような特殊事例でも、まずは現状を拝見した上で見積もりをご提示します。他の事例については修理ブログ一覧もあわせてご覧ください。
よくある質問
DIY で画面に塗った樹脂は、修理時に必ず剥がせますか?
完全硬化したレジン系の素材は、機種・塗布量・硬化時間によって剥離難易度が大きく変わります。剥離工程で予期せぬ追加破損が発生する可能性があるため、当店では事前にその旨をご説明し、ご了承いただいた上で着手しています。お預かり後に状況を確認し、判断が難しい場合はその時点でご相談いたします。
Dynamic Island が反応しない場合、画面交換だけで直りますか?
原因によって異なります。今回のケースのように樹脂で光学部品が遮蔽されているだけなら、樹脂除去 + センサー清掃 + 画面交換で回復する見込みが高いです。ただし基板側のセンサーコネクタや IC が損傷している場合は別途対応が必要となります。診断で切り分けてからご案内します。
Always-on Display の挙動がおかしいのは画面の問題ですか?
環境光センサーの誤検知、ディスプレイドライバの異常、設定不整合などいくつか原因が考えられます。今回のように樹脂越しの誤検知が原因ということもあれば、ソフトウェアアップデートで改善するケースもあります。まずは無料診断で原因を特定するところから始めるのがおすすめです。
予約なしで持ち込んでも見てもらえますか?
10:00〜19:00(水曜定休)の営業時間内であれば飛び込みでも対応可能です。ただし在庫・混雑状況により、お預かりや当日返却の可否は変動します。事前にお問い合わせフォームからご一報いただけると、スムーズにご案内できます。
配送修理はどのように依頼すればよいですか?
お問い合わせフォームから症状をご連絡いただいた後、こちらから送付方法と必要事項をご案内します。到着後に診断 → お見積もり → ご承諾後に修理着手という流れです。分解前の見積もりは無料、提示後のキャンセルも可能ですが、部品発注後は所定の手数料が発生する場合があります。