先日、当店に持ち込まれたiPhone 11は、ぱっと見では大きな外傷もなく、ただ画面が縞模様で点滅しているだけの状態でした。お客様にお話を伺うと「ネットで読んだ方法で、減圧して水分を蒸発させようと圧力鍋に入れた」とのこと。実は水没端末の自己処置でこの種の失敗事例は、2019年から大阪・松屋町で店を構えてきたなかで月に2-3件ペースで遭遇しております。

洗面所で水没 → 検索 → 圧力鍋という選択
事の経緯はこうでした。深夜、洗面所でiPhone 11を落とし、シンクに溜まっていた水に約10秒沈没。慌てて拾い上げ、タオルで拭き取った段階では電源は入っていたそうです。しかしリンゴマークが点いたり消えたりを繰り返し、操作不能に。
そこからネット検索が始まりました。「米に埋める」「ドライヤー」「真空パック」などの定番情報を経て、ある海外フォーラムに辿り着いたとのこと。そこには「圧力鍋で減圧すれば、水の沸点が下がり常温でも水分が蒸発する」という理屈が書かれていたそうです。理屈そのものは物理的に間違ってはいません。問題は、それをスマートフォンに当てはめた点でした。
注意: 圧力鍋は本来「加圧して短時間で煮込む」器具で、「減圧」は副次的な現象に過ぎません。家庭用の圧力鍋では精密電子機器の安全な乾燥環境は作れません。さらに密閉空間で温度・気圧が乱高下すると、リチウムイオン電池には膨張・破損・発火のリスクが伴います。
持ち込み時の状態 — 鍋から出した直後よりも酷くなっていた
到着したiPhone 11を当店の作業台で開けたところ、想像以上の被害が見えてきました。まず本体背面が中央部分でわずかに膨らんでおり、これはバッテリーが膨張している典型的なサインでした。バッテリーを取り出すと厚みが通常の1.5倍ほどに変形しており、コネクタ周辺も歪んでいる状態。
内部を覗くと、ロジックボード上の小型コネクタ複数箇所に白い結晶のような腐食が確認できました。水道水のミネラル分が高温下で急速に基板上に析出した跡だと推測されます。さらにディスプレイケーブルのフレキが部分的に変色しており、表示異常の直接原因はここにありました。
圧力鍋で何が起きたのかをお客様の説明から再構成すると、おそらく次のような流れでした。火にかけて鍋内が高温多湿の状態になる → スマホ内部の残留水が一気に水蒸気化して各部品の隙間まで侵入 → 火を止めて鍋内が冷えると気圧差が生じ、内部の水蒸気が結露して再び液体化 → 同時に圧力差でバッテリーセルが内部から押される。乾かすつもりが、逆に水分を内部全体に行き渡らせ、なおかつバッテリーに物理ストレスを与えてしまったわけです。
同様の「乾燥処置の失敗」は、機種は違えど同じ症状の他事例でも何度か拝見しております。共通するのは「良かれと思って熱や圧力を加えた」という点でした。
当店での復旧作業 — 段階を踏んで判定
復旧作業はまず分解診断から始めました。分解前のお見積もりは無料、お見積もり提示後のキャンセルも可能(分解診断・部品発注後は所定の手数料が発生する場合があります)とご案内したうえで、内部洗浄に着手。
工程はおよそ以下の通りでした。
- 膨張バッテリーを慎重に取り外し、火災リスクのある状態を解消
- ロジックボードを取り外して超音波洗浄機で約5分処理。腐食結晶と残留水分を除去
- 顕微鏡下でコネクタピンと表面実装部品を一本ずつ確認、酸化部分を専用フラックスで処理
- ディスプレイの劣化フレキを新品に交換
- バッテリーを純正同等品に交換し、絶縁テープで固定
- 仮組みで起動確認 → 通信・カメラ・タッチ各機能の動作確認
結果、約2日のお預かりで起動・通話・カメラ・指紋以外の主要機能は復旧。ただしFace IDのドットプロジェクタ部分には水濡れ反応センサーの腐食が残っており、こちらは別途部品交換となりました。お客様には事前に「Face IDの完全復旧は機種・症状によっては難しいケースもあります」とご説明し、ご了承の上で進行。最終的にロック解除はパスコード運用となりましたが、写真や連絡先などのデータは保持されたまま納品できました。
iPad の事例ではありますが、分解と部品交換の流れは似通っていますので、ご参考までにiPad画面割れ修理の流れもご覧ください。
水没したときに「やってはいけない」3つのこと
今回のケースから抽出できる教訓を、客観的事実として3点お伝えします。
1. 加熱しない。ドライヤー・電子レンジ・圧力鍋・オーブン — いずれも内部の水分を蒸発させるどころか、バッテリーや接着剤に深刻なダメージを与える可能性のほうが高くなります。当店の経験上、加熱処置を経た端末は基板修理の難易度が一段上がる傾向にありました。
2. 電源を入れて動作確認しない。水滴が基板に残った状態で通電すると、ショートで本来生きていた部品まで道連れに焼損するケースが少なくありません。リンゴマークが出ても、すぐ電源を切ることをおすすめします。
3. 振らない・揺らさない。水を内部に拡散させてしまい、最初は片側だけだった被害が全体化することがあります。
水没直後にできる最良の処置: 電源を切る → SIMトレイを抜く → 立てかけて自然乾燥 → 早めに修理店へ。これだけで復旧率は大きく変わってきます。
ご自身での修理を否定するつもりはありません。ただ精密電子機器は、誤った処置の影響が外見からは判断しにくく、後の復旧工程の手間と費用を押し上げる結果になりがちでした。判断に迷われたら、一度プロにご相談いただくのが結果的に近道になることもございます。
大阪・松屋町の大阪・松屋町スマエキでは、来店修理に加えて全国からの配送修理にも対応しております。営業時間は10:00〜19:00、水曜定休。配送・お見積もり・データの取り扱いについては修理料金の目安のページに目安を掲載しておりますので、まずはこちらをご一読いただければと思います。料金は機種・症状によって異なります。お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。
過去に対応した水没・基板関連の事例については修理ブログ一覧にも記録を残しております。同じ機種でお悩みの方の参考になれば幸いです。
よくある質問
圧力鍋や電子レンジで水没スマホを乾燥させても大丈夫ですか?
おすすめできません。今回ご紹介した事例のように、急激な温度・気圧の変化はバッテリー膨張や基板腐食を悪化させる可能性が高くなります。当店の経験上、加熱処置を経た端末は復旧難度が上がる傾向にあります。電源を切って自然乾燥のうえ、早めに修理店へお持ちください。
水没してから何日くらいまでなら復旧の見込みがありますか?
症状と水質によって変わりますが、目安として水没から72時間以内のご来店であれば復旧率は比較的高めです。ただし通電を続けたり加熱処置をされた端末は経過時間より状態のほうが結果を左右します。判断に迷われたら、まずはお問い合わせフォームよりご相談ください。
水没後にバッテリーが膨らんでいるようですが、自分で取り外しても良いですか?
膨張したリチウムイオン電池は穴が開くと発火する危険性があります。針や金属工具で押したり曲げたりせず、火気から遠ざけてそのまま修理店までお持ちください。当店では膨張バッテリーの取り扱いも対応しておりますので、無理な自己処置はお控えください。
Face IDが直らないと言われましたが、データはどうなりますか?
今回の事例では、Face IDのドットプロジェクタ部分の腐食までは復旧できませんでしたが、写真・連絡先・LINEなどのデータは保持された状態で納品できました。ほとんどの修理でデータを保持したまま対応可能(基板修理・水没等の重度故障は事前バックアップ推奨)です。
配送修理にも対応していますか?
はい、全国からの配送修理を承っております。大阪・松屋町の店舗まで宅配便でお送りいただき、診断後にお見積もりをご提示します。お見積もり提示後のキャンセルも可能(分解診断・部品発注後は所定の手数料が発生する場合があります)。詳細はお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。