泡まみれの iPhone 13 Pro を持ち込まれた瞬間

先日、平野区で老舗の酒店を切り盛りされている 30 代の男性店主が、青ざめた顔で当店のドアを開けられました。手にはビニール袋に包まれた iPhone 13 Pro。袋の内側はうっすら泡が残り、独特のホップ香が漂っていました。

iPhone 13 Pro water-damage 修理事例

「店の常連さんとカウンターで話しとったら、満杯のジョッキの中にポチャンと…。慌てて取り出して電源切ったんやけど、画面が虹色にチラついて、その後真っ暗になってもうた」。前日 22 時頃の出来事で、来店までおよそ 14 時間。電源は切ったままビニール袋に入れ、生米に埋めて持参されたとのことでした。

当店では水没のご相談を月に 5〜7 件ほどお受けしますが、アルコール飲料への水没は実はこの 1 年で 4 件目です。ビール・ハイボール・日本酒、それぞれ症状の出方が異なり、今回のビールは糖分とタンパク質を含むため乾燥後に粘性の残留物が基板に張り付くのが厄介でした。同じ症状の他事例でも、水道水に比べて二次故障の進行が速い印象です。

カウンターでの初期診断と店主へのご説明

受付カウンターでまずヒアリングしたのは三点。落下からの経過時間、電源投入の有無、そして液体の種類と濃度。今回は生ビール、店主曰くキンキンに冷えていた一杯で、水温は 5℃前後と推測されました。

低温環境での水没は内部結露を招きやすく、基板上の微細パターンに沿って腐食が広がります。表面的に乾いて見えても、シールドカバーの下や Lightning(Tris-USB-C ではない第 3 世代の Lightning)端子の奥は別の話。お客様には次のようにお伝えしました。

「今この場で電源を入れる前に、まず分解して内部洗浄させてください。通電状態で液体が残っていると、ショートで基板側に傷を増やしてしまうんです」。お見積もりは分解前は無料、分解診断後にキャンセルされる場合は所定の手数料が発生する旨も書面でご確認頂きました。料金は機種・症状によって異なるため、修理料金の目安をご参考頂きつつ、最終金額は診断後にご提示する流れです。

店主からは「商売道具やから、データだけは何としても」とのご要望。連絡先 1,200 件、注文書の写真 800 枚以上、酒販ルートのやりとりが LINE に残っているとのことで、ほとんどの修理でデータを保持したまま対応可能ですが、水没のような重度故障は事前バックアップ推奨である旨も丁寧にご説明しました。

分解からアルコール洗浄、基板診断までの 3 時間

作業台に移し、静電防止マットの上で背面ガラスを温めながら剥離。バッテリー横のシールには既に微かな変色が見られ、水没インジケーターは赤に染まっていました。これは Apple 側の補償対象外を示すサインです。

液晶を外すと、ロジックボード周辺に琥珀色の薄膜。乾いたビールが糖質ごと固まったものでした。シールドカバーをひとつずつ取り外し、超音波洗浄機に分解した部品を投入。専用洗浄液を使用し、26kHz で 10 分間。これを 2 セット行いました。

洗浄後、実体顕微鏡 (40 倍) で基板を観察。U2 IC 付近にわずかな腐食、ディスプレイコネクタ FPC の根元に銅色の点蝕が確認できました。今回のような点蝕は、放置すれば 3〜7 日で導通不良に発展する経験則があります。当店では 2019 年から水没基板を扱っておりますが、ビールやワインなど糖分を含む液体での腐食進行は水道水のおよそ 1.5〜2 倍速い体感です。

店主に途中経過をお電話 — ではなく、お預かり時にお伺いした連絡用のメッセンジャーへ画像付きで報告。「U2 IC は通電可、ただし周辺コンデンサ 2 個の交換が望ましい」「画面は表示確認済み、バックライト IC 異常なし」「Face ID は要再診断」と段階を踏んでお伝えしました。お客様が判断材料を持って決められるよう、選択肢は常に複数ご用意するのが当店の方針です。大阪・松屋町スマエキの松屋町住吉 6-26 では、こうした中間報告を全件で行っています。

復旧後のテストとお引渡し、その後の生ビール談義

コンデンサ 2 個の交換、防水パッキンの再施工、内部清掃を経て、Face ID も含めた全機能テストへ。発熱、急速充電、Wi-Fi、5G、カメラ全レンズ、TrueDepth センサーまで一通り確認。Lightning 端子の認識も問題なく、修理後は技術基準適合確認のうえお引渡し可能な状態となりました。

翌日昼、店主にご来店頂き、データが全て残ったホーム画面をお見せした瞬間 — 「あぁ、助かった…」と本当に安堵された表情。LINE のトーク履歴を順にスクロールされ、注文書の写真もそのまま、酒蔵さんとのやりとりも全部生きていました。

お引渡し時、店主からは思わぬお話が。「ビール水没って、実はうちの店で月 1 件ぐらい常連さんが似たことやってる」。そう聞いて、なるほどと納得。カウンター飲みの店舗では、ジョッキとスマホの距離が近いんですね。当店からは「冷えたジョッキは結露で滑ります。コースター 2 枚分ほど離して置かれると安心です」と、修理屋目線のささやかな提案をお返ししました。

交換した部品に対しては 3 ヶ月の動作保証を付帯(落下・水濡れなど使用上のトラブルは対象外、詳細は保証規約ページに記載)。万一、水没後に時間差で症状が再発した場合は、再度の診断を当店で承ります。来店だけでなく配送修理も受付しており、遠方の方は iPad画面割れ修理の流れと同様の郵送フローでご依頼頂けます。修理ブログ一覧では、過去の水没・基板修理の実例を機種別にまとめておりますので、ご参考までに。

営業時間は 10:00〜19:00、水曜定休。お見積もり提示後のキャンセルも可能です(分解診断・部品発注後を除く)。お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

よくある質問

ビールやお酒で水没した iPhone も対応してもらえますか?

はい、当店ではアルコール飲料への水没修理も承っております。ビール・ハイボール・日本酒などは糖分やアルコール分の影響で水道水より腐食進行が速い傾向があり、できるだけ早めのご相談をおすすめします。経験上、24 時間以内のご持込で復旧率が大きく変わる印象です。

水没後、生米に入れておけば直りますか?

生米は表面の水分を一時的に吸う効果はあるものの、基板内部に侵入した液体や腐食には対処できません。むしろ電源を入れずにそのまま当店までお持ち頂いたほうが、二次故障のリスクを抑えられます。お預かり後に専用機材で分解洗浄するのが現実的な手順となります。

データを残したまま水没修理は可能ですか?

ほとんどの修理でデータを保持したまま対応可能ですが、水没・基板故障など重度の症状では事前バックアップを強く推奨しております。今回のような事例ではデータが無事に残ったケースも多くありますが、復旧を保証するものではないため、可能であればご来店前のバックアップが安心です。

修理時間と料金はどのくらいかかりますか?

水没修理は内部洗浄から基板診断まで含めると、機種・症状によっては当日返却可能なケースもありますが、腐食の度合いによっては 2〜3 日お預かりとなる場合もあります。料金は機種・症状によって異なるため、分解前のお見積もりは無料でご提示いたします。お問い合わせフォームよりご連絡ください。

大阪市内ですが、配送修理は可能ですか?

はい、来店修理・配送修理ともに対応しております。大阪市平野区・東大阪・堺方面など、当店までご来店が難しい場合は配送でも受付可能です。お預かり時に往復の流れと注意点をご案内いたしますので、まずはお問い合わせフォームよりご相談ください。