iPhoneに搭載されているリチウムイオンポリマー電池は、内部にコバルト酸リチウム正極と有機電解液を含んでおり、外部からの圧迫・釘刺し・短絡によって熱暴走を起こす可能性のある化学電池でございます。当店では2019年の創業以来、月に40〜60件規模でバッテリー交換を承っており、外したセルの取扱いには相応の手順を踏んでおります。本稿では、廃棄ルートの違い、Apple Trade Inにおける電池処理プロセス、JBRCのリチウムイオン電池リサイクル制度、そしてPSE認証バッテリの取扱規定について、技術的な側面から整理してまいります。
リチウムイオン電池の発火メカニズムと廃棄が難しい理由
iPhone 13 ProやiPhone 14 Plusに採用されているセルは、容量3,000〜4,300mAh前後、定格電圧3.83Vのリチウムイオンポリマー(LiPo)構造をとっております。正極材にコバルト酸リチウム、負極材に黒鉛、電解質には可燃性の有機溶媒(エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート系)が使用されているため、セパレータが破損して内部短絡が起きるとジュール熱で温度が急上昇。摂氏130度付近でセパレータが収縮し、150度を越えると正極が酸素を放出して熱暴走に至る、というのが概ねの流れとなります。

つまり外見が無傷でも、内部のセパレータに微細な損傷がある電池は、ゴミ収集車の圧縮工程で短絡を起こし発煙・発火に至るおそれがある、というのが行政が頭を悩ませている点でした。実際、環境省と消防庁の合同調査では、ゴミ処理施設での発火事案のうちかなりの割合がリチウムイオン電池由来とされております。先日も松屋町近隣のお客様から「自宅で膨張したiPhone 8のバッテリーを区のゴミに出していいか」というご相談を頂きましたが、結論から申し上げますと自治体の不燃ゴミ・粗大ゴミに出すことは基本的に不可、となります。同じ症状の他事例もあわせてご参照ください。
iPhoneバッテリーの廃棄ルート比較
適正な廃棄ルートは大きく分けて4系統が存在いたします。それぞれの仕組みと向き不向きを表にまとめておきました。
| ルート | 対象 | 特徴 | 備考 |
|---|---|---|---|
| JBRC回収協力店 | 本体から取り外した電池単体 | 家電量販店等の黄色回収BOX、無償 | 膨張・破損品は対象外の場合あり |
| Apple Trade In | iPhone本体一式 | 下取り査定→Apple指定処理業者へ | 電池単体での持込は不可 |
| 自治体小型家電回収 | iPhone本体 | 大阪市は協定店舗等で受付 | 電池入りのまま、本体を投函 |
| 修理店経由 | 交換で外した旧電池 | 業者ルートで適正処理 | 当店も該当 |
ご自身で交換キットを購入されて取り外した電池の場合、本体と切り離されているためApple Trade Inのルートには乗らず、JBRC回収拠点か修理店への持込が現実的な選択肢となります。
JBRC(一般社団法人JBRC)のリチウムイオン電池リサイクル制度
JBRCは資源有効利用促進法に基づき小型充電式電池のリサイクルを担う団体で、リチウムイオン電池・ニッケル水素電池・ニカド電池の3種類について、会員企業の製品を全国約3万拠点の協力店で無償回収する仕組みを運営しております。回収された電池は提携リサイクル工場で破砕・湿式精錬を経て、コバルト・ニッケル・銅などのレアメタルへ再資源化される、というのが大まかな流れでした。
大阪府内では、家電量販店・ホームセンター・一部スーパーの店頭に黄色いリサイクルBOXが設置されており、住所と協力店リストはJBRC公式サイトの拠点検索から確認可能となっております。注意点として、(1)端子部分にビニールテープを貼って絶縁する、(2)膨張・液漏れ・破損した電池は対象外で別ルートとなる、(3)JBRC会員マーク(スリーアロー)が無い無名電池は受付不可の店舗もある、という3点は事前に確認しておきたいところです。
当店で交換時に取り外したiPhone純正バッテリーについては、業者ルートで適正処理を行っております。料金は機種・症状によって異なりますので、修理料金の目安からお問い合わせフォームよりご連絡ください。
Apple Trade Inにおける電池処理プロセス
Apple Trade Inは下取りプログラムですが、査定額が付かない端末であってもAppleが無償で引き取り、リサイクルへ回す仕組みを併設しているのが特徴となっております。Appleの環境レポートによれば、回収端末はまず人手で動作確認・データ消去が行われ、再利用可能と判断されたものはリファービッシュ品としてマーケットへ、再利用不能と判断されたものは解体施設で機械分解→素材別回収という流れになります。
電池に関しては、Appleが開発した解体ロボット「Daisy(デイジー)」および後継機が稼働しており、iPhone 1台あたり約11秒で15モデル以上の本体から電池モジュールを抽出する、と発表されておりました。抽出されたセルは認定リサイクラーへ送られ、コバルトとリチウムが回収される設計となっております。Apple自身もこの再生コバルトを新品iPhoneのバッテリーに再投入する取り組みを進めており、2025年モデル以降は全新規設計のApple製バッテリーで100%再生コバルト使用を目標、と公表しておりました。
ただしApple Trade Inに出せるのは「本体一式」であり、お客様自身で取り外したバッテリー単体や、社外品バッテリーは対象外となります。本体ごと処分されたい場合は、データバックアップ→「iPhoneを探す」オフ→初期化、までを済ませてから発送される流れとなりました。大阪・松屋町スマエキでも、データバックアップ方法のご相談は来店時に承っております。
PSE認証バッテリの取扱規定と非認証品のリスク
2019年2月の電気用品安全法(電安法)改正により、リチウムイオン蓄電池(単電池1個あたり体積エネルギー密度400Wh/L以上)はPSE規制対象品目に指定されました。これに伴い、国内で販売される交換用バッテリーには菱形PSEマーク(特定電気用品以外)の表示が義務付けられた、という経緯がございます。経過措置期間は終了しており、現在は新規流通品にPSE表示がなければ電安法違反となる規定となっておりました。
iPhone用の社外互換バッテリーをインターネット通販でご購入される際には、商品ページにPSEマークと届出事業者名(輸入事業者または製造事業者)が明記されているかを確認することが推奨される、というのが法令上の建前です。経験上、PSE表示の無い格安互換バッテリーは、保護回路(PCM)の品質や容量表記に無理があるケースが散見され、装着後数ヶ月で膨張・容量低下を起こす事例も月に数件はお預かりしてまいりました。
ご自身での交換に挑戦される場合、純正リファービッシュまたはPSE認証の社外品を選択し、両面テープと粘着シートはきちんと専用品を使用すること。プラスチック製のオープニングツールで電池を持ち上げる際、変形・折れ曲がりが生じた場合はその時点で使用中止とし、絶縁テープを貼ってJBRC拠点へ、という流れが安全な手順となります。失敗してリカバリーが必要となった場合はiPad画面割れ修理の流れと同様、事前バックアップを取ったうえでお預け頂くと作業がスムーズです。
膨張・液漏れバッテリーの応急対応
バッテリーが膨らんで背面ガラスを押し上げている、画面が浮いている、本体が異常発熱する、という3兆候が確認されたら、まず充電を停止し、電源を落としたうえで金属物から離れた不燃材のトレー(陶器の皿等)に置いて保管する、というのが応急対応の基本となります。膨張は電解液の分解で発生したガスによるもので、放置すれば破裂・発火に至るおそれがあるため、速やかな取り外しが望ましい、と考えております。
当店では膨張バッテリーのお預かり実績が月に3〜5件ございます。お持込の際は、本体を発火に強い容器(金属缶・不燃布袋)に入れて頂き、車内の高温下に長時間放置しないようご注意ください。膨張電池はJBRC回収対象外となるため、修理店または家電量販店の有人カウンターでの引取りが現実的なルートとなりました。
当店での取扱いと回収後のフロー
スマエキ(大阪市中央区松屋町住吉6-26、営業時間10:00〜19:00、水曜定休)では、バッテリー交換のご依頼を頂いた場合、お預かり時間はバッテリー交換で約30分目安(在庫・混雑により前後)で作業を行っております。交換した部品に対して3ヶ月の動作保証(落下・水濡れなど使用上のトラブルは対象外、詳細は保証規約ページ)を付帯させて頂いております。
外した旧バッテリーは、店内の不燃容器(難燃マット・金属トレー併用)で一時保管し、一定数量に達した時点で産業廃棄物として登録のある回収業者へ引渡し、最終的に湿式精錬工場でレアメタル回収という流れに乗ります。お客様が「外したバッテリーだけ返してほしい」というご要望の場合は、絶縁テープ処理のうえお渡しも対応しておりますが、保管・処分はお客様側で前述のJBRC等のルートに乗せて頂く形となります。
修理事例の詳細については修理ブログ一覧でも継続的に発信しておりますので、機種ごとの傾向もご参照頂けます。分解前のお見積もりは無料、お見積もり提示後のキャンセルも可能(分解診断・部品発注後は所定の手数料が発生する場合があります)。修理後は技術基準適合確認のうえお引渡しいたします。
よくある質問
iPhoneのバッテリーを大阪市の不燃ゴミに出してもよいですか
リチウムイオン電池は自治体の不燃ゴミ・粗大ゴミでは原則回収不可となっております。家電量販店等のJBRC回収協力店、Apple Trade In(本体一式の場合)、または当店のような修理店への持込が適切なルートとなります。
膨らんだバッテリーをJBRC回収BOXに入れてもよいですか
膨張・液漏れ・破損した電池はJBRC回収BOXの対象外となります。家電量販店の有人カウンターまたは修理店での引取りをご検討ください。当店でも膨張バッテリーのお預かりは月に3〜5件対応しております。
Apple Trade Inでバッテリーだけ引き取ってもらえますか
Apple Trade Inは本体一式が対象のため、取り外したバッテリー単体は対象外となります。バッテリー単体の場合はJBRC協力店または修理店経由での処分が現実的です。
PSE表示の無い互換バッテリーを使うのはなぜリスクがあるのですか
保護回路の品質や容量表記の信頼性が確認されていないため、膨張・容量低下・最悪の場合発火事故のリスクがあります。経験上、装着後数ヶ月で不調をきたす事例も散見されますので、PSE認証品の選択を推奨しております。
当店で交換した旧バッテリーは返却してもらえますか
ご希望があれば絶縁テープ処理のうえお渡し可能ですが、その後の保管・処分はお客様側でJBRC等のルートに乗せて頂く形となります。通常は当店で適正処理ルートに引き渡しております。