先日、お持ち込みいただいたiPhone 7 Plusの状態が、当店としても月に1〜2件あるかないかというDIY事例でした。画面割れに対して「水が入ったら困るから先に密封しておこう」と、ご自身でアクアリウム(水槽)用のシリコン充填剤をフレーム周囲に塗り込み、そのまま24時間ほど硬化を待ったとのこと。結果として、画面が映らないだけでなくホームボタンのTouch IDも反応しない状態になっていました。

2019年から大阪・松屋町で修理を続けてきた中で、シリコン系の自己処置はこれまで数件経験がありますが、水槽用のものを使ったケースは久しぶりでした。今回はその経緯と当店での復旧の流れを、教訓としてまとめておきます。

iPhone 7 Plus screen-crack 修理事例

失敗の経緯 — 「防水したつもり」が機械を圧迫した

持ち主の方によると、出張先で画面右下を割ってしまい、帰宅まで雨に当たる時間が長かったため、応急処置のつもりで自宅にあった水槽用シリコン(アクアリウム用の透明シーラント)をフレームと画面の隙間に塗り込んだそうです。「酢酸系の匂いがしたが、防水と書いてあったから問題ないと思った」とのことでした。

その後しばらくは画面が映っていたものの、半日ほど経過した頃から徐々にタッチが鈍くなり、翌朝にはバックライトすら点かなくなったため、ご相談に至りました。

注意点:水槽用シリコンの多くは硬化時に酢酸ガスを放出します。金属端子や接点に触れると腐食の原因になり、密閉空間で硬化させると内部基板やコネクタへの影響が出ることが知られています。スマートフォン用に作られた接着剤ではないため、用途外使用となります。

もうひとつの問題は「量」でした。iPhone 7 Plusは元々防水パッキン(液状ガスケット)が薄く一周しているのですが、その上から市販シリコンを厚く盛ってしまったため、フレームとディスプレイアセンブリが過剰に圧着された状態となっていました。本来0.数ミリの隙間で逃がすはずの圧力が、内部のフレキシブルケーブル方向にかかった、というのが当店の見立てです。

被害状況 — 画面・Touch ID・スピーカーの3点同時不具合

分解前のお見積もり段階で、外観だけでも次のような状態が確認できました。

  • 画面右下から左上に伸びるクラック(元々の落下痕)
  • フレーム周囲に固化したシリコンが幅2〜3mmで盛られている
  • シリコンが充電コネクタ側にも回り込み、Lightning端子の縁を一部覆っている
  • イヤースピーカー部の小穴がシリコンで完全に塞がれている

分解診断に進んでよろしいかをお客様に確認したうえで作業を開始したところ、ディスプレイ側ではなく内部側に深刻なダメージが見つかりました。具体的には次の3点でした。

  1. シリコン硬化時の体積膨張で、ホームボタン(Touch ID)のフレキシブルケーブルが折り曲げ部分から断線寸前まで圧迫されていた
  2. 充電端子のフレキにシリコンが侵入し、コネクタピン3本が酢酸成分で薄く変色
  3. 液晶コネクタの周囲にもシリコンが回り込み、コネクタを外す際の作業余裕がほぼゼロの状態

幸いロジックボード本体への侵入はわずかで済んでおり、メインの基板修理は不要と判断しました。同じ画面割れでも、シリコンを盛った時間が長かったり熱がこもる環境(車内放置等)であれば、基板側まで腐食が進んでいた可能性があったのではと考えます。同じ症状の他事例もあわせて参考になさってください。

修理での回復 — 溶剤を使わずヘラと熱で剥離

シリコン除去では、つい「シリコン剥離剤」を吹き付けたくなるところですが、Lightning端子内部や液晶コネクタ周囲では溶剤が逆に被害を広げます。今回はヒートガンを低温(50〜60℃目安)に絞り、樹脂製のピックとヘラだけで物理的に少しずつ剥がしました。フレーム周囲の硬化シリコンは、層になっているため一周ぐるりと薄皮のように外せたのが救いでした。

ディスプレイアセンブリ自体は割れも進行していたため新品同等品に交換、Touch IDのホームボタンは元のものをそのまま流用し、断線寸前だったフレキ部分は再ルーティングのうえ純正粘着で固定し直しました。Touch ID指紋認証はホームボタンとロジックボードがペアリングされているため、別個体への交換ではFace IDのない7 Plus世代では機能を失います。今回はホーム部品が生きていたため、Touch ID復旧まで含めて約90分(混雑により前後)で対応できました。

充電端子側はシリコン除去後、変色していたピン3本を清掃し導通テストで合格範囲に収まったため、フレキ自体は交換せず継続使用としています。当店ではこのような「交換しなくても済むパーツは残す」判断を基本としています。iPad画面割れ修理の流れと同様、まず分解診断で被害範囲を見極めてからお見積もりをお出しする流れです。

今後への教訓 — 応急処置の「防水化」がかえって寿命を縮める

今回のケースで一番伝えたいのは、画面が割れた状態で慌てて密封処置をしないでほしい、という点です。割れた画面は確かに水分や粉塵の侵入経路になりますが、密閉処置によって内部にこもった湿気や接着剤の溶剤成分が抜けなくなり、結果として被害が広がる例を経験上、何件か見ています。

もし画面が割れて雨や水回りが心配な場合は、応急的に乾いた柔らかい布で覆い、ジップロック等で「外側だけ」軽く包んで持ち運ぶ方が、内部に余計な物質を入れずに済みます。本格的な対処は、修理店に持ち込んでから判断するので十分間に合います。

当店からのお願い:液体ガラスコーティングや水槽用シリコン、UVレジンなど、スマートフォン用途として設計されていない素材を端末に直接塗布した場合、内部腐食や配線断線が同時進行することがあります。状態によっては復旧不可となる場合もあるため、迷ったら塗布せずにご相談いただくほうが結果として早く・少ない手数で済むケースが多いです。

iPhone 7 Plusは2016年発売で、すでに発売から年数が経過した機種となります。部品在庫はまだ確保していますが、Touch ID指紋認証を維持できるかは元のホームボタンの状態次第です。「割ってしまったが、ホームボタン認証だけは絶対残したい」というご相談も多いため、自己処置を加える前にご一報いただけると幸いです。

当店大阪・松屋町スマエキは10:00〜19:00(水曜定休)の営業で、来店・配送どちらも受け付けています。分解前のお見積もりは無料、提示後のキャンセルも可能(分解診断・部品発注後は所定の手数料が発生する場合があります)。詳しい修理料金の目安や、過去の事例を集めた修理ブログ一覧もあわせてご覧ください。

よくある質問

水槽用シリコンを画面に塗ってしまった端末でも修理できますか?

状態によります。シリコンが内部基板に深く侵入していなければ、物理的な剥離と部品清掃で復旧できる例があります。一方で硬化から日数が経ち、酢酸成分による腐食が基板まで進行している場合は、基板修理を含む長時間作業や復旧不可となるケースもあります。まず分解診断で範囲を確認させてください。

Touch ID(ホームボタン指紋認証)は元の機能のまま戻せますか?

iPhone 7 Plusの場合、ホームボタン基板とロジックボードがペアリングされているため、元のホームボタンが生きていれば指紋認証機能ごと維持可能です。今回の事例では、シリコン圧迫で断線寸前だったフレキを慎重に再固定することでTouch IDを復旧しました。ホームボタン部品自体が破損している場合、指紋認証機能のみ失われ、押下機能は継続使用できます。

画面割れの応急処置として何かしておいたほうがよいことはありますか?

経験上、何も塗布しないことが最善です。市販テープやシリコン、コーティング剤は、後の修理工程で剥離に時間がかかったり内部腐食を招くことがあります。乾いた柔らかい布で軽く覆い、できれば早めにご相談いただくことをお勧めします。

iPhone 7 Plusの修理時間と保証について教えてください。

シリコン除去を伴わない通常の画面交換であれば30分目安(混雑・在庫により前後)、今回のような特殊清掃を含む場合は90分前後となりました。交換した部品に対しては3ヶ月の動作保証をお付けしています(落下・水濡れなど使用上のトラブルは対象外、詳細は保証規約ページ)。